今日はピクニックごっこの予定だった。なぜ「ごっこ」かというと、出かける場所が家のすぐ近くの公園で、手作りの食べ物を一品持ち寄るだけのお手軽なものだからだ。
朝からわたしとママはパイ生地をこね回し、すごくいい香りのするアップルパイを作った。味見をしたらほっぺたが落ちるほど美味しかった!
これなら友だちも喜ぶなあ、友だちはなにを持ってくるのかな……。
そう思っていたのに、友だちはふたりともカゼをひいてしまった。
ママが電話を取ってしばらく話したあと、電話の相手に「お大事に」と言いながら、わたしを悲しそうな目で見た。そしてわけを話してくれた。
「残念ね。あんなに楽しみにしてたのに」
「うん」思っていたより元気のない声が出た。
「ママと行く?」
「いい。ひとりで行ってくる」
そう言うとママは目をぱちくりさせたけれど、「じゃあ出かける用意をしなきゃね」とパイを包み始めた。
わたしは外に行きたい気分だったし、ママには悪いけど、これは子どもだけの秘密の行事なのだ。
公園には誰もいなかった。ちょっと寂しいけど、静かなのもいいもんだなと思った。鳥の声がよく聞こえるから。
わたしは木陰のベンチに座って、パイの包みを開けた。やっぱりいい香り。
パイを一切れ食べながら、ぷかぷかと浮かぶ雲がなにに似ているか考えていると、しだいに鳥が集まってきた。なんだか羨ましそうにわたしの周りをうろうろしている。生地の端っこをちぎって放ったら、「待ってました!」とばかりにチュンチュンと突っついた。面白いので何度もえさをやると、鳥の数がすごいことになってきた。
そのとき、公園に男の子がひとり、入ってきた。すこし太っちょだ。その子はわたしのほうに一直線に歩いてくる。しかも手になにか持ってる。マフィンかな?
それを食べながら鳥の群れをかきわけて、「ねえ、それ鳥にあげるくらいなら、ぼくにくれない?」と言った。
「えっ……うん。いいよ」
びっくりしたけど、ひとりで食べるには多い量だったから頷いた。
男の子はわたしの隣にドスンと座った。ベンチが揺れた。そして手に持っていたお菓子を一口で食べてしまうと、「じゃあもらうよ」とアップルパイをほおばった。口からこぼれそうなほど詰めこんで、もぐもぐしている。
彼のほっぺたや手やお腹はまるまるしていて、さわったらぷにっと気持ちよさそうだ。
「美味しい。こりゃうちのママといい勝負だな」
「そうでしょ? ママとわたしの合作なの」わたしは得意げになった。「ところで、あなたは誰?」
「アルセストっていうんだ」
「わたしはユメ。あなた、食べるのが好きなんだね」
うん、と彼が頷く。「それでこの体だからね」
開き直ってるのがおかしくて、わたしはくすくすと笑った。
「君さ、またここに来る? 今度お礼に何かおやつを持ってくるよ」
「いいの? うちが近所だから、ここにはよく来るんだ」
「オッケー。じゃあ今度はぼくがごちそうする」
約束だよ、と小指を差し出されて、わたしは自分の小指を絡めた。
友だちが来れなくなった時はどうなることかと思ったけど、こうして新しい出会いがあって、わたしは嬉しくなった。
りんごとシナモン