朝早く目覚めたユメはマルト家のガレージにやって来た。
「おはよう」
 ユメが言って、スラッシュとツウィッチが挨拶を返した。
「今日はいい物を持ってきたよ」
「なになに?」
 興味津々といった様子で近寄るツウィッチ。ユメはリュックを開いて一冊の本を取り出した。
「はいこれ。あやとりの本」
「あやとり?」
「紐を使った遊びなんだ。説明するよりやってみたほうが早いね。ツウィッチ、手を貸して?」
 灰色の両手を胸の前で開いてもらい、その指に輪になった紐をかけた。
「何すんの?」とスラッシュが見守っている。ユメは本を見ながらツウィッチに指示を出した。
「この指で引っ張って……左手で押さえて……ここをこう」
 しばらくして、ほうきのような形ができた。
「ほうきの完成だよ」
「ワオ、ほんとだ!」
「へーすごいね」
「ねぇねぇ、次は?」と楽しげなツウィッチが急かす。ユメはページをめくり、次に作るものを決めた。先ほどと同じように指示していく。
「右人差し指で紐を三回ひねる。それで右手首の紐を外して……」
「できた! これって流れ星だね!?」
「ちゃんと尾を引いてるね。ほんとに流れ星に見えるよ」
 ふたりの反応に満足したユメはにっこりした。
「それでね、ふたりでやるあやとりもあるんだ」
「そうなの? スラッシュ、やってみようよ」
 向かい合ったツウィッチとスラッシュの指に紐をかけ、本を見ながら指をさして教えていく。何度も紐のやり取りをして、やがてジェット機が完成した。
「ロビーとモーにも見せてあげようよ!」
 ツウィッチが歩きだして、スラッシュは引っ張られる形になった。
「ちょっと待った! このまま移動するつもり?」
「だってせっかく作ったのにもったいないじゃん?」
「まあそうだけど……って、待って、ゆっくり歩いて」
 紐を守ったままぎこちなく歩くふたりに笑いをもらして、ユメもついていった。
「うーん、なんか崩れちゃったね」
 母屋の前でスラッシュが肩を落とす。移動するうちに紐が外れてしまったようだ。紐を解いてツウィッチが首を傾げた。
「ユメ、また教えてくれる?」
「もちろんだよ」
 ロビーとモーの部屋の窓をツウィッチがコツンコツンと叩く。15分もすれば、眠そうな眼をこするふたりが出てきた。
「おはよう。スラッシュ、ツウィッチ。それにユメ」
「おはよう。今みんなであやとりをしていたの」
「あやとりかぁ! 前に少しだけやったことがあるよ」
 ロビーが言って、紐を用意するスラッシュとツウィッチを見つめた。「何を作るの?」とモー。
「それはできてのお楽しみ!」
 ツウィッチがいたずらっぽく言い、スラッシュが「ユメ先生、お願いします」と笑った。
 ユメの助けを得てもう一度ジェット機ができ、ロビーとモーは目を輝かせた。
「すごいね!」
「私もやりたい!」
 ユメはここぞとばかりにアクリル紐を取り出した。
「必要になるかもと思ってリュックに入れてきたんだ。持ってきてよかった」
「わあ、さすがに用意がいいね」とロビー。
「それじゃ、ツウィッチ、本を預かってもらっていい?」
「私!? いいよ!」
 ニコニコとページを繰るツウィッチを微笑ましく思いながら、ユメは紐の準備を始めた。

紐遊び