「こんにちは。ナイトシェード」
「やあユメ。ちょうど修理が終わったところだよ」
基地を訪れたユメは机の上に置かれたデバイスを眺めた。壊れた電子辞書の修理を頼んでいたのだが、何やら外装が変わっている。
「見た目も直してくれたの?」
「勝手にいじっちゃってごめんね。やり始めたら止まらなくなっちゃってさ」
「ううん、ありがとう。ナイトシェードみたいな素敵な色だね」
深緑色のそれを手に取り、ユメはにっこりした。
「ところで、このボタンは何?」
「ああ、それは音楽プレイヤーになるボタンだよ。バックグラウンド再生もできるから、勉強しながら使えるよ」
「ええっ! それって最高じゃない!」
「その下はテレビになるボタン。休憩にぴったりだね」
「すごい、もはや電子辞書じゃなくなってるよ!」
「それで、その下は電話になるボタンなんだ。ボク直通だから気軽に押してね」
「電話機能まで……。これはもうスマホだね」
ナイトシェードは笑って、「そうとも言うね」と言った。
「寝る前とかに君と話せたら嬉しいなと思ってさ」
「じゃあ今日から使うね。ふふ、楽しみ」
ユメはナイトシェードの手を取って、尖った指先にキスを落とした。
「直してくれてありがとう! じゃあ私、用事があるから行くね」
フリーズしていたナイトシェードは、
「……ああ、うん。またね」
ややあって手を振った。ユメが出ていくのを見届け、その手をぼんやりと見つめた。
(今のは?)
何だか指先が熱を持つような気がした。ユメがしたのと同じように、自分でももう一方の手に唇で触れてみる。けれども熱があるのはユメが触れた部分だけだった。
不思議に思いながら席につき、発明品をいじり始める。しばらく集中していたが、ふと気を緩めると先ほどの指先が気になり、思わずため息をついてしまうのだった。
「どうしたの? ため息なんかついて」
気がつくとハッシュタグたちが帰ってきていた。
「さっきユメが来てさ、修理した電子辞書を渡したんだけど、その時に――」
ナイトシェードはひらりと指先を見せた。
「ここに口付けられてね? それからボク、何だかおかしいんだ」
「キスされたの!? あらあら!」
「ユメはなんであんなことをしたのかな? どう思う?」
「たしかキスって、親しい仲間にするものじゃなかった?」と、ツウィッチが首を傾げる。
「する場所によって意味が違うと聞いた覚えがあるね。調べてみるよ」
一瞬でインターネット上に答えを見つけたハッシュタグは、「なるほど! わかったよ」とナイトシェードの肩を叩いた。
「指先へのキスは称賛の意味だってさ」
「そうか、ボクは褒められていたわけだね!」
ナイトシェードはぽんと手を打つと「嬉しいなぁ」と目を細めた。
「よかったじゃん! お姉ちゃんも嬉しいよ」
ツウィッチが微笑む。
「ボクも今度、ユメにキスしてみようかな」
「お返しをするってわけだね? どこにする? ふたりの関係だと、髪の思慕や瞼の憧憬、頬の親愛なんかがいいと思うよ。私は」
「ありがとうハッシュタグ。参考になるよ」
その夜、早速ユメから電話がかかってきた。ナイトシェードは温かい気持ちになりながら話をした。
「それでさ、今度君にお返しがしたいんだ」
「お返し? 私、何かあげたっけ?」
「うん。今日確かにもらったよ。明日また会える? その時に渡すね」
「えっと、ありがとう? 何かな、楽しみにしてるね」
「うん。期待していて」
ナイトシェードは口付けたあとのユメの反応を想像して、口元を緩めた。
着火