「よし、今日の分終わり!」

 ペンを置きノートを閉じるユメ。ぐっと背伸びをしてソファにもたれかかると、背後に隠れていたフレンジーが器用に跳躍し、 たった今書き終えたばかりの日記を掠め取っていった。鮮やかな手際だった。

「あっ! ちょっと!」

 愉快そうな電子音をあげながらちょこまかと逃げ回るフレンジーに対して、追うユメの表情は必死そのものである。彼女に荒々しく踏みつけられたラグが乱れ、テーブルの上のチラシがぱさりと床に落ちた。

 フレンジーとしては、ただユメと遊びたいだけであり、日記の中身を覗き見るためにこうして逃げている訳ではなかった。 (中身はもちろん気になるが、同意もなしに読むのはプライドが許さない)

「いいかげんに、してっ!!」

 初めて聞いたユメの怒声に、フレンジーは面白いほど硬直した。口があんぐりと開き、ショートした回路が活動を再開しようとやっきになる。 顔を赤くして肩で息をしているユメがちょっと可愛いだとか、本気で怒っているような表情が怖いだとか、でもそれがまたいいなどとぼんやりした頭で考える。

 日記はかろうじてフレンジーの手に収まっていたが、ユメによってはぎ取られた。そして、あまりの勢いに傾いだ小さな体になど見向きもせず、ぱたぱたと駆けて行ってしまった。

 実はユメが大事に抱えたその日記には、フレンジーへの慕情が書き連ねられていたのだが、当の本人はそんなこと知る由もない。

(まだ秘密にしておきたいのです)