「ユメちゃん、ポップコーンを作ったよ。食べて?」
 あひるのダギーがバケットに入ったポップコーンを持ってきた。
 怪しげな食べ物を勧めてくるのはいつものことなのだが、今日はなにやら骨の描かれたタイツを着ている。
「なに? その格好。レントゲン写真みたい」
「仮装だよ。今日はハロウィンでしょ?」
「あ、そっか」
 道理で甘い香りがすると思った。塩バターじゃなくて、かぼちゃ味のポップコーンだろうか。
 もう一方の手にもお菓子の入った籠を持っているし、ハロウィンにかける気合いがうかがえる。
「まさか子どもたちに配るつもり? また変なもの入れてないでしょうね」
「なんにも仕込んでないよ」
「どうだかなぁ……」
 涼しい顔のダギーに疑いの目を向ける。彼の作る菓子はたいてい火薬が入っているのだ。口の中で弾けるといえばポップロックキャンディだけど、あんなのは比較にならない。ダギーのは口の中で戦が起きる。
 なかなか味を見ようとしない私に、ダギーは悲しそうな顔をした。
「グワッ! 今度ばかりは本当だよ? 信じて。お願い」
 そう言ってエメラルドの瞳をきらきらさせる。なんという愛らしさだろう。だが、嘘の常習犯を侮ってはいけない。
「あのね、狼少年って知ってる? 私がきみに何度火薬を食わされたと思ってるの」
「だから反省したんだよ」ダギーはいよいよ困り顔になった。「美味しいポップコーン作ろうと頑張ったんだもん……」
 しょんぼりと肩を落とす姿に良心が痛んだ。せっかくのイベントなんだし、追及はこれくらいにしておこう。
「わかった。信じるよ」
「じゃ、味見してみて?」
 舌の上で爆発しないことを祈りながら、ポップコーンをつまむ。
「ん! 美味しい……!」
 自然と二口目に手が伸びる。
「でしょ? ユメちゃん警戒しすぎー」
「ごめんね。疑心暗鬼になってたの」
「もっと食べていいよ」
「や、もう充分。人にあげる分とっておかないと――?」
 急に口が回らなくなった。と思ったら、今度は全身から力が抜けて、床に倒れこんだ。
 ……なにが起きた?
 かろうじて自由のきく目を動かす。そしてダギーのいやらしい笑みを見たとたん、奴の仕業だと理解した。火薬の次は毒か!
 ダギーが私の耳にくちばしを寄せる。
「今日はいたずらしていい日なんだよね?」

トリックしかない