ピンポンとインターホンを押すと、軽やかなユメの声。
 さてお姫様はこの手土産を喜んでくれるだろうか。ノックアウトは白いビニール袋を後ろ手に隠した。

「あ、ノックアウト。今日は休み?」
「いや。思ったより仕事が早く片付いてね」

 本当は残り半分以上を助手とビーコンに押し付けてきたのだが、サボりを快く思わない彼女には秘密にしておく。同僚と時間は有効に使わなければ。

「さあさ、上がって」
「今日は節分という行事だとか」
「そうそう、よく知ってるね! ちょうど恵方巻買いに行こうかと思ってたところ」
「その必要はありませんよ」
「海苔、干瓢、きゅうり……材料買ってきてくれたの。ありがとう!」
 キラキラと輝きだすユメの瞳に、ノックアウトは軽く目眩がした。近頃の自分はこのために生きていると言っても過言ではない。

「一緒に作ろうね。ハイ割烹着」
「私にコレを着ろと」
「そのつやつやボディにご飯粒ついたら嫌でしょ」

 *

「よし、あとは巻くだけだね」
「具がずれないように手で押さえながら巻くそうです」
 スーパーで配布していたレシピを読み上げると、ユメは「こんな感じかな」と巻き簾を丸め始めた。
 形を気遣うせいか、やや酢飯を押さえる力が強い。
「ああユメ、もう少しふんわり巻かないと。……こうやって」
 後ろから抱きすくめるように手を重ねると、ユメの体が強張った。
 それに気付きつつも、耳元でささやくノックアウト。
「キツく巻くと硬い海苔巻きになってしまいますからね」
「だ、大丈夫。ひとりでできるよ!」
「ふふ」

 *

「ただいま帰りました」
 コンソールを叩いていたブレークダウンが心なしか鋭い視線をよこす。
「遅かったな。またレースか?」
「いいや。ユメのところ」
「ずるいぞ! そういうの抜け駆けって言うんだぞ」

「メディックノックアウト! まーたお前は遊び歩いて……」
「すみません、スタースクリーム。ユメがどうしてもと言うものですから」
「ユメがどうしたよ?」
「彼女は私の(作った恵方巻)を美味しそうに咥えてましたよ」
「なっ……おま、ユメを抱いたのか!」
「え? ……まあそんなところですね」
「くっそー! 俺もあいつ狙ってたのによお! 覚えとけよノックアウト、いつか奪ってやるかんな!」

「“くっそー!”“俺もあいつ狙ってたのによお!”」
「いたんですかサウンドウェーブ。っていうかあなたもですか」
「実は俺もいいなって思ってたんだけどよ……。幸せにしてやれよお!!」
「洗浄液拭きなさい」

巻いて巻いて

(さて、いつバレますかね)