エアとユメはゲームのコントローラーを手に隣り合っていた。
 画面に映っているのはぷよぷよとした物体だ。上からひと塊ずつ落ちてきては、下にある塊にくっついていく。同じ色が大きくなると消える仕様だ。
 今のところ、ユメの画面のほうがカラフルな物体で埋まっていた。
「どうやら状況は僕に有利なようですね」
 エアは落ちてくるものをこまめに消しながら、ふふんと笑った。
「いいや、まだわからないよ」
 と言いつつユメは何やら独自のやり方で積み上げている。それらの塊が上端に達しようとしたとき、
「勝負は決まったも同然! ユメさん、残念でしたね!」
 勝ち誇ったエアは敗北者の表情を見るべく、隣に視線を向けた。
 にやりとユメが笑うやいなや、画面端ぎりぎりのところで小さな塊が消えた。そして、空いたスペースに自由落下したものが、またひとつの塊になり消えた。同じようにして次々と連鎖して画面が片付いていく。
「そ、そんな!?」
「私はこれを狙っていたんだよ」
「僕の完璧な戦略があっ!」
 もはや太刀打ちできないスコアを前に、エアはコントローラーを投げ出し、ガクリと床に手をついた。
「残念だったね、エアくん」
 先ほどの言葉を返しつつ、ユメはエアの肩を優しく叩いた。
「潔く敗北を受け入れましょう……。さあユメさん、願いはなんですか?」
 このゲームに負けたほうは、勝った者の言うことをなんでもひとつ聞くという約束だ。
 ユメは黙り込んだあと、「じゃあ……き、キスして……」と、かろうじて聞き取れる声で告げた。
「今、キスと言いましたか?」
「うん……」
 気まずいのか、うつむいて手を握り合わせる。
 まさかこんな形でふたりの仲を進展させる時が来ようとは。拒否するべくもないですね、とエアは思った。
「そうですか……わかりました」
 眼鏡の位置を直してエアは微笑んだ。
「後悔しても知りませんよ」

願ってもない