ユメは自分の目を、次に頭を疑った。そして、頬をつねるという古典的な方法でもって自らがいる世界を確認した。
 その結果目に映るものが夢幻でないと分かったとたん、嬉々とした雄叫びをあげた。
 ヘリキャリアにいる者たちの視線がユメに集まる。が、声の主を確認すると「またか」といった感じで仕事に戻る者が半数。
 もう半数に向けて、
「あ……いや、ウイルス駆除がうまくいったものだから」
 ユメはぼそぼそとあらぬ言い訳をし、席を立った。電子端末を手に、目的の人物を探す。この血の滾りを共有できるのは彼しかいない。

「いたいた……フィル!」
 呼び止められたコールソンは書類を脇に抱えながら振り向いた。
「何か用?」
「私、ついに手に入れちゃった!」
 極上の笑顔を見せるユメを訝るも、画面に表示された物を見るやいなや、目の色が変わった。
「これは……キャプテンのフィギュアじゃないか! しかも数量限定のヴィンテージもの……!」
「どこで見つけたと思う?」
「オークションだろ? 高値がついたろう」
 ユメは笑みを深くした。
「それがなんと近所のガレージセール! 30ドルだよ!」
「そんなことが……」
「ママが気を利かせて買ってくれたの。日頃からキャップの魅力を説いた甲斐があったよ!」
 すっかり有頂天になったユメはその場で一回転した。通路を行きかう職員たちの注目を集めるが、当人は気にも留めない。
 コールソンは唾をのんだ。キャプテン・アメリカことスティーブ・ロジャース――彼のファンなら誰もが入手を夢みる逸品が、手の届くところにある。
「譲ってくれと言っても、無理だよね」
「うん」ユメが笑顔で答える。
 コールソンは早々に交渉を諦めた。同じファンだからこそ、手放せない気持ちが分かる。
「じゃあせめて触らせて。絶対壊さないから」
「いいけど息が荒いよフィル。落ち着いて」

 背後で控えめな咳払いが聞こえ、二人は振り向いた。コールソンがたちまち笑顔になる。
「キャプテン、ちょうどいいところに!」
「やあ、どうも」
 ユメはピシリと音をたてて固まった。憧れの人が半径一メートル以内に入るなど想定外だった。
「割り込んですまない。けど、たまたま話の内容が耳に入って……」
 スティーブは言葉を切り、視線を外した。そして一瞬ユメを見、それからコールソンを見据えた。
「その、触るとかなんとか聞こえたんだけど、君には恋人がいるよね。そういうの、良くないと思うんだ」
「ああ、誤解だよ。実は――」
 言いかけたコールソンを押し退け、ユメが身を乗り出した。この世の終わりのような顔をしている。
「違うんです! 違うんですキャプテン。やましいことは何も……」
 みるみるうちに涙が溢れ、ユメは言葉に詰まった。
「ごめんなさいさよなら!」
 全力で逃げ出したユメの背中を、男二人はただ、見送ることしかできなかった。
「女の子を泣かせちゃった……」
「えーと、こうなった責任は私にあるんだ」

神のいたずら