船が地球に針路をとり、航海を続けていたある日のこと。乗組員は星の海に、小さな惑星を見つけた。
 それは見たところ花に覆われていた。そして近づくにつれ、危険な生命体のいないことがわかってきた。
 その情報が操縦室からボロスに届くと、そばにいたユメが目を輝かせた。
「ボロス様、着陸しましょう」
「なぜだ」
「花を摘みに行くのです。こんな素敵な星、そうそうありませんわ」
 戦いのことしか頭にないボロスも、地球はまだ遠く、なにより彼女の頼みであったから、寄り道をしてみる気になった。

 ふたりは小型船に乗って地表へ降りた。
 花の香りをふくむ空気が、訪問者を優しく包みこむ。見渡す限りの花畑だった。
 ユメは足下の花を摘み取り、その芳香を胸いっぱいに吸い込んだ。
「夢の中にいるみたい」
「ああ。こんな星があるとはな」
 花畑の眩しさに目を細めながら、ボロスが応えた。
 遠くのほうに顔を出した小さな獣は、ふたりを見るや、そそくさと走り去っていった。
「この星の生物は、か弱いな。俺は些か物足りないが……」
「これはこれで、いいものです」
「少し歩いてみるか?」
「ええ。ぜひ」
 ボロスが先に行き、ユメは花を気づかって、彼の足跡を辿った。

 しばらくすると、森に入った。
「これは何かしら。グロリバースに似てますね」
 ユメが興味を持ったのは、開いた貝殻のような植物だった。二枚の葉は人を包めるほど大きく、縁に隙間なく棘が並んでいる。
 剛毅な仲間の姿に似ており、そのうえ良い香りがする――となれば、ユメは覗き込まずにはいられなかった。
 その葉が、突然ぱくりと閉じた。ボロスが手を引いていなければ、顔を挟まれていたところだった。
「ああ、助かりました」
「油断したな」
「あら……これは?」
 二枚の葉が閉じたことで、隠れていた実が露わになっていた。どうやら、甘い香りはその実から漂っているようだった。
 ユメはそれをもぎって、軽く拭いた。
「……何か、嫌な予感がする」
「そうですか? でも、ちょっとの毒なら問題ありませんよ」
 私たちの体は丈夫ですから、と言ってユメはボロスが止めるよりも早く、一口かじった。
 が、たちまち渋い顔になった。良いのは香りだけで、とても食べられたものではなかったのだ。
 ボロスは声をたてて笑った。
「だからやめておけと言ったんだ」
「う……。こんなに不味いものを食べたのは久しぶりです」
 ユメは近くの川へ急ぎ、口をすすいだ。
 そして今度は木に生る実を見つけた。こちらは先のものより地味な見た目をしている。その分味が良さそうだと考えたユメは、懲りもせず毒味した。
「うん、これは美味しいです!」
「そうか。よかったな」
「ボロス様、マントを貸してくださいな」
 彼が言われたとおりに背を向けると、ユメはマントの裾をしばり、袋状になったそこへ果実を積み始めた。
「皆の分です。私がいいと言うまで、動いてはいけませんよ」
「……うむ」

花の惑星