不思議とすっきり目が覚めた。時計を見ると予定していた時刻より一時間ほど早い。アラームを解除して、寝そべったまま隣を見る。
枕に頬の毛を埋めたヒューガルデンさんが、すうすうと寝息を立てている。
何とはなしに毛並みを眺めているうちに、私の目は自然と彼のマズルに引き寄せられた。
人間とは違う飛び出した形状。丸みを帯びた白い円筒。
胸や頭と比べて短い毛で覆われたそれを、心ゆくまで撫でたい衝動に駆られる。鼻筋から額にかけて灰色のグラデーションが入っているのも綺麗だ。
と、まぶたの下で眼球が動き始めた。
これは、夢を見ている。
呼吸のリズムも変化した。何かを嗅いでいるのだろうか。
黒いボタンのような鼻先へ指を近づければ、温かく湿った呼気がかかり、次に吸気でひやりとした。
ヒューガルデンさんの鼻は、起きている間は少し湿っていて艶があるのだけど、こうして寝ている時は乾いている。
ふと、私の頭によこしまな考えが浮かんだ。
ベッドを揺らさないようサイドテーブルへ手を伸ばし、引き出しから小分けされたチョコレートをひとつ取った。音を立てないように包み紙を開き、そっと彼の鼻へ近づける。
夢にチョコレートが出てくるに違いない。胸の中で笑いながらしばらくそうしていると、ヒューガルデンさんの口元に変化が現れた。
クチュ、クチュ、クチュ。
小さな水音が閉じた口から漏れ出てくる。
顎の皮の下で、舌が動いているのがわかる。
(食べてる! チョコを食べてる!)
企みが成功した可笑しさに加えて、乳児のような愛らしさを感じてしまい、私は笑いをこらえきれずに指を滑らせてしまった。
「あ……」
鼻にチョコの当たったヒューガルデンさんが薄目を開ける。件の品は慌てて隠したけれど、何をしたかバレてしまったかもしれない。
彼は長く息を吐いた。黒い縁取りの目が眠そうに瞬く。
「君が……チョコレートの泉に落ちて、飲み干して救おうとする夢を見た……」
かすれた声でそう言う。
「そうなんですか……」
なんだか可愛い。そして、夢の中でも助けようとしてくれたことが嬉しい。
「夢でよかった……」
ほっとした様子で呟いて、彼はまた目を閉じた。
白と灰