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「寒いなー。寒い」
東の空が白んできた。稜線のむこうがほんのりと橙に色づいてきているが、太陽はなかなか姿を見せない。
人混みの中ならまだ寒さも紛れるというものだが、幸か不幸か山頂には私とジャズ、バンブルビーの三人しかいなかった。大晦日に飲み過ぎた面々は、まだ夢の中である。
私がまだ? と訊くと、ジャズはあと8分、と答えた。
見ると寒さのために眉を下げているのは私だけで、二人とも端然と日の出を待っている。彼らは体温保持のために震えることがないから、ひとり身体を揺らしている私が馬鹿みたいだ。
「ビー、あっためて」
隣のバンブルビーに抱きついてみたが、温度を調節していなかったらしく黄色の表面はひやりと冷たい。これでは体温を奪われる一方なので、彼から離れる。
かわりにジャズがバンブルビーに近づき、彼の耳元で何かをささやくと、ビーのカメラアイが驚いたように収縮した。そのまま私を見やる。
「なに?」
「ごめんね。気づかなくて」
内緒話のように、声量を抑えて言う。
「日の出見たらホテル行こっか」
「……ん?」
話が見えない。
「あっためてあげるね」
「え、いや、そういう意味ではなくて」
ほっこりと笑うバンブルビーの向こうに、ニヤニヤ笑いのジャズが見えた途端、耳打ちの意味を理解した。
「こら、ジャズ! ビーに変なこと吹き込まないで!」
まあ、頬が暖まったことには感謝しよう。
朝をまってる