プライド・トルーパーズの本部に出勤したジレンは、休憩スペースに人だかりができているのに気づいた。
「……何があった?」
ちょうど集団の端にいたトッポに声をかければ、彼は豊かなひげを翻して振り向いた。
「おおジレン。ユメの差し入れだそうだ。あるうちにもらっていくといい」
事情だけ聞いて通り過ぎるつもりでいたジレンの心にブレーキがかかった。ユメだと?
人だかりに分け入っていきたい気持ちを抑え、目的のテーブルに近づけるのを辛抱強く待った。幸い、差し入れの量はふんだんにあったようで、残り八個ほどで手に取れる番が来た。
透明な袋に包まれたスポンジ――手作りのシフォンケーキだろう――を前に、トッポとジレンは並び立った。
「む……いろいろな味があるのか。迷ってしまうな」
大きな手がシフォンケーキの上をさまよい、抹茶色のものを選び出していった。
「休憩時に食べるとしよう」
ほくほく顔で歩いていくトッポを見やり、ジレンは薄黄色のものを選んだ。丸いシールに綺麗な文字で、プレーンと書かれている。
ユメの時間と想いの詰まった一品だ。そう思うと市販のどんな商品よりも輝いて見え、シフォンケーキだというのに、ずしりとした重みがあるような気がした。
夕方、事務室に顔を出したジレンは、ユメに「ついてきてくれ」とだけ言って屋上に移動した。
「どうしたんですか?」
まっすぐ見つめてくるユメは夕日色に染まっている。
ジレンは薄い小箱を差し出した。
「これをやる。菓子の礼だ」
「そんな、お返しだなんて」
「気にするな」
それは、ユメに似合うと思い買ったものの、渡す機会がないままロッカーに眠っていた物だった。
つまり、ずいぶん前から想っているということなのだが、それを言うべきか逡巡して、余計な言葉は不要とジレンは判断した。
「では、ありがたく頂戴しますね。開けてもいいですか?」
頷けば、ユメはリボンを解いて箱を開けた。
「わあ……」
丸い天然石のイヤリングだ。光の角度によって薄桃色から薔薇色に変わって見える。
わずかに手を動かして色の変化を眺めながら、「綺麗ですね」とユメは微笑んだ。
「着けてやろう」
イヤリングを手にしたジレンが屈んで耳に触れると、ユメは目を泳がせてから、まぶたを閉じた。そうして両耳に着け終わると、
「えへへ、似合ってますか?」
耳に手をやりうつむいた。
「嬉しいなぁ。まさかジレンさんからプレゼントをいただけるなんて」
「……オレはキミを好いている」
ようやく口にできた一言に、ユメはパッと花の咲くような笑顔を見せた。
「実は私もジレンさんのこと好きでした」
「……過去形か?」
「あ、いえ! 好きです。現在進行形で」
「では、付き合ってくれるか?」
「はい!」
喜んで頷くユメを見るや、心に暖かい風が吹き込んできた。
こんなことなら、もっと早く言うべきだった。ジレンは臆していた自分を笑った。
「近々、食事でもどうだ?」
「いいですね。お互いの休みが重なる時に……って、連絡先の交換もまだでしたね」
ふたりは携帯を取り出して、画面に目を落とした。
「なんだか夢のようです」
「オレも同じ気持ちだ」
返礼