カフェの席についたディスポとユメはメニューを開いた。ここはフルーツを使った食べ物が人気の店で、パフェやトーストが写真付きで載っている。
「目移りしちゃうね」
「なんでも好きなだけ頼んでいいぞ」
「ふふ、ありがとう。でも一品だけでいいよ」
 パラパラとページをめくったユメは「私、パフェにしようかなぁ」と言った。
「オレも同じのを頼むとするか」
 呼び出した店員にディスポは告げた。
「季節のフルーツパフェをふたつ。ドリンクセットで頼む」
「かしこまりました。お待ちください」
 しばらくして、期待の品が運ばれてきた。
 グラスの中央に丸く盛られたアイスを囲むように、半分に切った黄緑色のフルーツが二重に並べられ、花のようになっている。下のほうは赤いソースと緑色のゼリー、白いクリームが詰まっていて彩りを添えている。
「わぁー! 美味しそうだね、ディスポくん!」
「そうだな!」
 口元を緩ませながら写真を撮るユメを眺めて、感慨に浸る。女性の喜びそうな店をリサーチしたかいがあった。
 ユメとはこれで三回目のデートだ。トッポに紹介されて出会ってから、ひと月が経つ。
「いい子なんだが、内気で緊張しいなところがあってな」
 そうトッポが言った通り、初めは表情が硬くオドオドしていたのだが、優しく接するうちに笑顔が増え、口調も柔らかくなった。
 花がゆっくりと咲いていくようなその変化をディスポは喜んだ。
 今日もパフェを美味しそうに頬張る笑顔の、なんと可愛らしいことか。オレは幸せ者だなぁと心の中で思う。
「いやあ、美味かった」
 グラスを空にしたディスポの一方で、ユメはあと少しといった様子だ。下に敷いた皿には、パフェのてっぺんに乗っていた赤いフルーツが一粒置かれている。
「ユメちゃん、これは嫌いか? オレが食べてやるぜ」
 手を伸ばすディスポから、ユメは果実を守った。
「これは最後に食べたくてとっておいたの」
「そうだと思ったよ」
「もう! ディスポくんったら」
 ユメが軽く睨んでくるが、少しも怖くないのでディスポは笑いをこぼしてしまった。

 カフェを出たあと、ふたりは様々な宇宙の花を鑑賞できる庭園にやって来た。
「これが第7宇宙のバラという花なんだね」
「ああ。綺麗だな」
 ディスポの脳裏に力の大会の思い出がよぎる。命ある今に感謝しかない。
 ユメは花をひとつひとつ愛でては進んでいく。
 悪党と戦う日々の中で、こうして穏やかな時間を過ごすと平和がいっそう美しく感じられ、それを守っていく決意を新たにするのだった。
 ユメにベンチを勧めたディスポは切り出した。
「次はどんな所に行きたい?」
「うーん……。美術館とか、映画館とか?」
 当然のように次があることを肯定してくれる。そこに確かな好意を感じ取ったディスポは、勇気を振り絞った。
「ユメちゃん。……よければ、オレと正式に付き合ってくれないか」
 目を見開いてから、ユメは微笑んだ。
「うん、もちろん! 私、もう付き合ってるような気がしていたよ」
「それは嬉しいな!」
 ディスポの心は歓喜で満たされた。
「キミはオレが幸せにする」
 無意識に言ってしまってから、プロポーズのようだなとハッとする。にわかに自分の鼓動がうるさくなってきた。
「よろしくお願いします」
 お辞儀をしたユメはディスポの手に自分のそれを重ねた。
 この温もりを離したくない。ディスポはユメを守ることを固く誓った。

開花