「貴女様は間違っておられる」
そうノボリ様に云われて了いました。
オヤ、何時もと様子が違うぞと私は首を傾げました。
ノボリ様は49勝した挑戦者に、賞賛と激励の言葉を掛けるはず。私がこうして勝つのは初めてでしたが、お決まりの台詞は諳(そら)んじておりました。それを聴く為にここまで来ましたのに、どうして云って呉れないのです。
「私のオノノクスをこれほど傷つける理由がありましょうか」
咎める様に呟いて、彼は横たわるオノノクスを擦りました。若草色の肌にはそこかしこに傷があり、戦闘の激しさを物語っていました。
勝敗が決してから暫く経ってもピクリともしないところを見ますと、瀕死というには些か重症のようです。
私のサザンドラはオノノクスを殺める意気込みで技を放ったに違いありません。
「一寸力が入りすぎたのですよ、ねえサザンドラ」
そうはぐらかして見ても、ノボリ様の視線は刺すように鋭いまま。私の言葉が偽りであると見透かしているかのようでした。
アア、白い弟君に向けるような眼差しを、私に呉れはしないのですね。
ノボリ様の特別になり度いからですと、どうして本当のことが云えましょう。
無数の乗客の一人では不毛なのです。凡庸な挑戦者では不十分なのです。ノボリ様の目に留まるために、完璧な勝利が必要でした。お気に召さなかったのが残念でなりません。
本当は、私が労ってもらうはずでしたのに。
乗車前の身を焦がすような思いに、憎しみに似た感情が広がっていくのを感じましたが、見て見ぬ振りをしました。
貴方が認めてくださるまで、私は何度でもあなたのポケモンを屠りましょう。
純愛パラノイア