「君にハーブを差し入れる許可が下りたんだ!」
嬉々としてシルビアが報告してきたのが今朝。
ぽんと放り込まれた花束を049は拾った。小さく縦に連なる紫の花はラベンダー。稲のような青草はレモングラスだろう。
「これはシルビア君が選んだのかい?」
問いかければ、機嫌のよさそうな声がスピーカーから流れてきた。
「そうだよ。夏だし爽やかなのがいいと思ったんだ。……といっても室内じゃ季節なんて関係ないか」
ここには時計もカレンダーもない。たまの外出には、もれなく拘束具と鎮静剤がついてくる。そんな環境のなか、もたらされた品物に049の心は和んだ。
顔を近づければ爽やかな香気が鼻をくすぐる。何度か呼吸を繰り返して、穏やかな気持ちが胸に満ちるのを感じた。
「ありがとう。……とても良い気持ちだ」
「それはよかった。ハーブは良いよね」
シルビアの優しい声が耳に心地よい。花束を嗅いだまま目を閉じれば、彼女とラベンダー畑にいるかのような錯覚を起こした。
しかし目を開ければ代わり映えのしない壁があるだけ。049はもう一度目を閉じた。
(彼女に触れられたら、どんなにいいか)
胸に秘めた願望がうずく。シルビアが来てからというもの、悪疫を根絶するほかにもう一つ夢があるのだった。
「前々から考えてたんだけど」と、シルビアが言う。「ドクターとSCP-458のクロステストを申請してみようか。君がどんなピザを好きなのか興味がある」
思いがけない申し出に049は押し黙った。前々からピザボックスの話は聞いていたが、自分がそれを食べる想像はしたことがなかった。
「気が進まないのならやめておくけど」
「貴女一人で持ってきてくれるのであれば、テストを受けてもいい」
「治療される未来しか見えないな」
シルビアは笑った。
花園