いくつものジャック・オ・ランタンを横目に見ながら、ユメさんの家に向かう。
最後に会ったのはいつだったかな。かなり久々な気がする。
10月は中間テスト対策で塾の仕事が増えたし、街には仮装に乗じた怪人が出没するしでなかなか時間がとれなかったけど、ようやくお互いの都合が合った。
いったいユメさんは何をくれるだろう。ボクの仮装にどんな顔をするだろう。そして、ユメさんは仮装をしているだろうか。考えるだけでわくわくする。
角を曲がると、やわらかく光るガーデンライトが見えた。はやる気持ちを抑えてインターホンを押す。
ややあって、黒いマントに魔女のとんがり帽を身につけたユメさんが出てきた。
「ユメさん、トリック・オア・トリート!」
とボクが言うや、ユメさんは小さく黄色い悲鳴をあげた。
「その格好はドラキュラだね!? かわいい……!」
「そうかなぁ?」
鋭い付け歯やおどろおどろしい血糊のどこにかわいい要素があるのか、よくわからない。どちらかというと「怖い」とか「かっこいい」と言われたほうがしっくりくるんだけど。
「うん、かわいいよ。すごく」
ユメさんはボクの微妙な顔を見て取ったのか「いや……怖かわいいよ」と言い直した。
「なにそれ」
「あ、お菓子持ってくるね。ちょっと待ってて」
しばらくして現れたユメさんは登山用ザックを背負っていた。魔女とザックという組み合わせのカオスっぷりがいかにもハロウィンだ。
「ずいぶん大きい荷物だね」
「ふふふ……。童帝くんびっくりするだろうなぁ」楽しげに言いながら、ユメさんはザックをおろした。次いで中を見せる。
「ペロキャン詰め合わせをどうぞ!」
「うわっ! すごい量!」
全身が喜びに浮き立ったけれど、僕の理性が待ったをかけた。
「えっと……確認するけど、これ全部ボクに?」
「そうだよ」
「買いすぎだよッ! こんなに受け取れないよ!」
「ランドセルのアームなら運べるよね」
「持ち運びの話をしてるんじゃなくて!」
「遠慮してるの? いいんだよ。私が好きでやってることだもの」
「でも……」
幸せそうに微笑むユメさんを見ていると断りづらくなってくる。善意を押し返すのは結構大変なことだ。
「もらえるもんはもらっておきな。飴ちゃん美味しいよ!」
そう言ってだめ押しのように肩を叩く。ちょっと大阪のおばちゃんみたいだな。
「じゃあ、ありがたくもらうよ。けど、ユメさんは加減を覚えたほうが良い」
「う……ごめんね」
「僕はこうやって会えるだけでも嬉しいから」
「……うん! 私もだよ」
ユメさんが照れくさそうにするので、こっちまで恥ずかしくなってきた。なんだってあんなことを言ったのか。それはイベントの高揚感のせいだろう。
過多