満開の花をつけた木の下で、マジョラとユメは小さな丸テーブルを挟んで向かい合っていた。ティーカップに注いだ茶を静かに置く。
「どうぞ、マジョラさん」
「ありがとう」
長い袖越しに持ち手を器用につかんでカップを傾ける。
「キミの淹れるお茶は特別美味しい」
「そうですか?」
一口飲めば爽やかな香りが喉を下っていく。
「私も、マジョラさんと飲むと美味しく感じます」
ユメは無数に咲く花々を見やった。
「とりわけ、花の咲く時期は」
「そうだな」
「今が見頃ですね。少し、散り始めてもいます。日の光を浴びて風に揺られる様子は、何か小さな生き物の集合体……魚群にも見えてきますね」
「面白い例えだね。私の盲いた目にも花の揺れ動く様が映るようだ」
そのとき、ひときわ強く風が吹いた。
「あ、花びらが――」
ティーカップの中にひらりと落ちた。これはこれで雅だが、やはり飲みにくいためスプーンで取り除いた。
「マジョラさんのカップにも入っちゃいましたね、花びら。取りましょうか?」
「お願いするよ」
ユメはスプーンですくって、取れましたと告げた。
するとマジョラは立ち上がってそばに来るなり、
「まだここに付いている」
頭頂部を優しく払った。
「まるで見えているみたいですね」
「ユメさんの匂いに花の匂いが加わったのでな」
そう言うと笑みを深くして覗き込んでくる。
「なんですか?」
マジョラはユメの顎に手を添えて、鼻に口づけた。
言葉をなくすユメを置いて席に戻り、再び茶を飲んだ。
ユメは熱くなってくる頬を押さえた。
「急にどうしたんですか?」
「いや……。ただの気分だ」
目の代わり