「昨晩はお楽しみでしたね」
 会うやいなや、グロリバースに言われたユメはぽかんとした表情をみせ、次いで頬を赤らめた。
「なんのことでしょう」
「ボロス様との房事のことです」
「なぜそれを知っているのですか!」
「自室にいたら、おふたりの声が漏れ聞こえてきたんでね」
 彼がにやにやしながら告げると、ユメの赤みが増した。困惑しきった様子で、そんなはずは、と呻く。今にも湯気が出そうな気配だった。
 たまらず、グロリバースが吹き出した。
「嘘です。鎌を掛けました」
「あなたという人は!」
「こら、あまりユメ様を困らせるなよ」
 見かねたゲリュガンシュプが割り込んだ。
 数ある触手の一本をユメの腹へかざし、ぽつりと呟く。
「まだですね」
 何を探ったのかは、言わずともわかった。ユメの声が羞恥で震える。
「あなたまで……」
「あ、すみません。つい」ゲリュガンシュプはあたふたと弁明した。「そう恥ずかしがることはありませんよユメ様。もしご懐妊となれば、これ以上の明るい知らせはありません!」
「そう……そうね」
 いくらか落ち着いてきたユメを見て、ゲリュガンシュプはほっと胸を撫で下ろした。
 彼女は怒らせると恐いのだ。それに、もしも泣かしたとなれば、主が黙っていない。

「オレはお子さんの眼の数が気になるぜ」と、グロリバースが言った。
「やっぱりモノアイかな」
「母親似でも綺麗だよな」
「褒めても何も出ませんよ」
 そこへメルザルガルドがやって来た。
「よお」「なんの話?」
 ユメ様の子作りについて、とゲリュガンシュプが口を滑らせると、
「楽しそうだな、俺も混ぜてくれよ」「どんなプレイがお好みで?」「侵略者が亡国の姫君を蹂躙」「いいと思うよ」「略奪、哀願、燃える」
「お黙り!」
 メルザルガルドはヴァッと悲鳴をあげて、地に伏した。
(今のはヤツが悪い)
(そうだな)
(それにしてもあの怒りよう、図星か?)
(さあ?)
「何を目配せしているのです」
「「なんでもありません」」

火星より愛を

(ダークマターは今日も平和です)