「っは、やめてくださいマル様ッ」
「いやよ。泣いて懇願しなさい。あなたが泣くまで、踏むのをやめない!」
「……という夢をみました」なんて、いつもの調子で言ってきたものだから私はちょっと唖然とした。
私はいつから彼の中で女王様キャラになったのか。実は結構恐れられているのだろうか。
そもそも彼はいつも業務をまじめにこなしていて、軽口を叩くような奴ではないのに一体どうした。悪いものでも食べたのか。
どう言葉を返すべきか迷ったあげく「大丈夫踏まないよ」と伝えると、がしっと肩をつかまれた。ビーコンのバイザーから漏れる赤がぶわっと光量を増す。
「いえ違います。おわかりになりませんかマル様、踏んでほしいのです!」
「きみ一回軍医に診てもらいなさい」
私を揺さぶりながらお願いします、お願いしますと繰り返すビーコンに異様な気持ち悪さと苛立ちを感じ、キャノンを一発打ち込みたくなった。
有能な部下を失うのは惜しい。しかし変態はいらない。
ひとり葛藤していると、
「“この愚か者めが!”」
サウンドウェーブのドロップキックが決まったビーコンが勢いよく飛んでいった。恍惚とした、いい……という呟きは聞こえなかったことにする。
「ありがとう、助かった」
「“マル”“踏んではだめ”」
「わかってるよ」
どんなに頼まれても踏むつもりは毛頭ないが、今のように迫られたら困ってしまう。後でマゾヒストとの付き合い方を検索しなければ。
私の困惑を察してか、サウンドウェーブは私の手を取り言った。
「“守ります”」
「え。あ、あり…がとう」
悠然と去っていく背中を、一抹の不安を感じながら見送る。これは、嵐の前の静けさではないかと。
カミングアウト
(あまりにも胸が苦しかったので)