魔王デスタムーアを倒し、崩れ行くはざまの世界から脱出したあと、レックたちはレイドック城での宴に参加していた。
ごちそうをひととおり食べ、歓談も済ませたユメは、中庭でダンスをしている人たちを城の二階から眺めていた。
「ユメさん、ここにいたんですね」
振り返ると顔を赤くしたアモスが近づいてきた。
「つい飲み過ぎてしまいまして、酔いを覚ましにきました」
「そうなんですね。ここは風が吹いていて気持ちいいですよ」
ユメは再び眼下の人々を眺めた。あの踊りに混ざる気持ちになれないのは、ひとつ気がかりがあるからだった。
「曇った顔ですね。具合でも悪いのですか?」
「いえ、体調は問題ないのですけど……」
ユメは言いよどんだ。アモスの心配そうな表情を見て、胸中を打ち明けてみる気分になった。
「みんな帰る家があっていいなと思っていたんです。ほら、私は異世界から飛んできた身だから……」
「そうでしたね。結局、もとの世界に戻る方法は見つかりませんでしたね」
「はい。そろそろ帰るのは諦めて、この世界で暮らしていく覚悟を決めないと。でも、どこへ行ったらいいか、わからないんです」
ユメの声が細くなった。重たい話題に返事が浮かばないのか、しばし沈黙がふたりを包んだ。
「ユメさん、行くあてがないのでしたら、共にモンストルで暮らしませんか?」
「……え?」
「平和になった今なら心置きなく言えます。あなたのことが……好きなんです」
その時、花火が打ち上がってふたりの顔を鮮やかに染めた。言われた意味を理解して、ユメは頬が熱くなる思いがした。
「えっと……すごく嬉しいです。アモスさんのこと、ずっと慕っていたので」
「そうなんですか!? じゃあ、オッケーってことですか!?」
「私でよければ、よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げれば、アモスは「私、夢を見ているみたいです!」と叫んだ。
それから数ヶ月後。ふたりはモンストルで暮らしていた。庭で草むしりをしているアモスに、ユメは「そろそろ休憩にしませんか?」と声をかけた。
「そうしますね!」と答えたアモスは手を洗って席についた。テーブルの上にはできたてのアップルパイがある。ユメが切り分けて皿に盛るとアモスはそれにかぶりついた。
ニコニコと見つめるユメ。
「どうですか?」
「うん、こりゃ美味しい! お店が出せますよ」
「ふふ、それはよかった。たくさん食べてくださいね」
ユメも一切れかじれば、サクッとした歯触りとジューシーなりんごが口の中で踊った。
あっという間に平らげたアモスの皿にもう一切れアップルパイを載せる。
「洗い物が終わったら私も手伝いますね」
お茶を注しながらそう言うと、アモスは頬張った物を飲み込んでから首を横に振った。
「いえ、ユメさんは休んでいてください。日に焼けてしまいますからね。女性の柔肌を守るのが男ってものです」
「優しいですね。そういうところが好きなのですけど」
「いやー、照れますね。ユメさんのおかげで力がわいてきましたよ!」
この後も頑張りますねと張り切るアモスにユメは微笑んだ。
帰る場所