白い帆がはち切れんばかりに膨らみ、風を捕まえる。私たちを乗せた船は港町ルプガナを出て、順調に航海を続けていた。もうすぐアレフガルドに着くだろう。
 日の光がさんさんと降り注ぐ甲板で、私は潮風の心地よさに目を細めた。
「綺麗ね」
 隣でぽつりとナナが言った。
「うん。晴れてよかったね」
「見て。海鳥があんなに」
 指さしたナナが風に吹かれた髪をおさえて、
「海を見ると昔を思い出すわ。海辺でお父様とお母様と砂のお城を作ったっけ……」
 懐かしそうに微笑む。――けれども、しばらくしてその微笑みがフッと消えた。亡き両親を思い出したのだろう。

 私は、ナナが人知れず泣いているのを知っている。昨晩、ルプガナの宿で眠りにつく間際、しゃくりあげる声を聞いたのだ。
 ――ナナが泣いてる。
 暗闇の中で耳を澄ましてそう確信したけれど、私は起き上がって声をかけるのをためらった。昼間は涙どころか弱音ひとつ零さないナナが、私が寝付く頃を見計らったかのように涙を流したのだ。これを妨げたら自由に泣くこともできないのではないか――。
 泣くことで浄化できる悲哀もあると聞く。というのは言い訳で、私は本当のところ、どうやってナナを慰めたらいいのか分からなかったのだ。一夜にして国も両親もなくした彼女を、どうやって?

 でも、思いを伝えなければ。
 私は船の手すりに置かれたナナの手に、そっと自分の手を重ねた。
「ナナ、私がそばにいるよ。どこにも行かない。この旅が終わっても」
 大きな瞳が少しばかり左右に揺らいで、
「ありがとう……ユメ」
 ナナの優しい笑みが戻ってきた。私はいつまでもこの表情を守ろうと心に誓った。
「魔物が出たぞーっ!」
 叫ぶ王子たちのもとへ駆け寄るために、私たちは重ねた手を解いた。

海に契る