「ほらスタースクリーム、この低反発枕試してみなよ。ものすごいよ」
「なぜ俺が試さなきゃならんのだ。おまえの枕を買いに来たんだろう」
「ぜひともスタースクリームのご意見を拝聴したいのです」

 突然のかしこまった態度に、これはからかわれているなと思ったがしかし、どうしてもと言うのであれば見解を述べてやらんこともない。
 棚に設置されているお試し用の枕に側頭部を当ててみる。重みの分だけなめらかに沈む頭。そばがら枕ともパイプ枕とも異なるその感触にいたく驚いた。
 これは心地良い。だが、若干柔らかすぎないだろうか。その旨をユメに告げると、彼女は自身も試したうえで納得し、一段硬めの枕を選んだ。悪い気はしなかった。

「ねえ、ベッドの方も見てくれないかな」
「不特定多数の人間どもが行きかう店の中で、このベッドに、無様に横になれと言うのか?」

 俺はディセプティコンのリーダーだぞ、と続きそうになった言葉を何とか押しとどめた。ご自由に、と書かれたシートが忌々しい。横では寝転がった中年夫婦が意見を交わしている。阿呆が。
「……だめ?」うなだれるユメ。
「枕はおかげで良いのが選べたから、ベッドも見てくれると嬉しかったんだけど」
「…………」

 いらいら、プライド、羞恥心その他の感情より、わずかに下心を含んだぬるい気持ちの方が勝った。いつか俺が吟味したベッドの上で返礼される日が来るやもしれん。
 一つのベッドの上に堂々と仰臥する。無防備な姿をさらすことに不快の念を禁じえないが、必要なデータは余すところなく収集され、比較された。
 調査が順調に進み、最後のベッドに横になったとき、おのおの指定された品物を抱えたディセプティコンの面々が戻ってきた。

「あ、おかえりー。今スタースクリームに品定めしてもらっててね」
 かすかな沈黙のあと、真っ先に吹いたのはブラックアウトであった。バリケードはニヤニヤ笑いを隠そうともしていないし、ボーンクラッシャーはなんとか笑いをこらえようとしてプルプルと震えている。ブロウルはというと一心に天井を見つめている。涙をこぼすまいとして上を向く奴は少なくない。
 反応に差はあったが、どれも怒りのボルテージを上げた。
「この、鉄屑どもがっ!!」
 荒々しく踏みつけられたポケットコイルが、ぎしりと音をたてながらも反発する。品質は確からしいと、頭の片隅で思った。

おねだん以上

(住まいをトータルコーディネート)