仕事帰り、家の前にうぐいす色のごつい車が止まっているのに気づいた。色からして軍用車だろうか。フロントガラスは濃い紫色のスモークで中が見えない。
 通り過ぎようとすると、「そこのお嬢さん」と声がした。自分のことだろうかと一応振り返る。
「そうそう、あなたですよ」
 陽気な声が嬉しそうに言った。けれども人の姿が見えない。ユメは声のする車のほうを注視した。
「わたしとお茶でも飲みませんか」と、声は続ける。
「いいです。疲れてるんで」
 ユメはにべもなく断って家に入った。

 しばらくするとインターホンが鳴る。ドアを開けると二足歩行のロボットらしき物体が視界を占拠した。一瞬考えたあとユメはすかさずドアを閉めるも、ガッと音がしてドアが跳ね返った。見ればうぐいす色の足が挟まっている。
「落ち着いてくださいですねえ」
「その声はさっきの……」
 ユメの言葉に、にこりと目を細めて彼は一礼した。
「わたくしスィンドルと申します。武器商人という仕事をしております。今日はあなたとお話ししたくて伺ったんですよねぇ」

 いったいこの精妙なロボットを操っているのは誰なのだろうと、ユメはあたりを見回した。
「中の人などいませんよねぇ」
「じゃあエイリアンなの?」
「そのとおり!」
 まあ立ち話もなんですから、と彼は胸のポケットから懐中電灯のようなものを取り出した。光を自身に当てるやいなや、みるみるサイズが縮んでいく。なるほどスモールライトか、とユメは深く考えるのをやめた。
 ユメより少し大きいくらいのサイズになったスィンドルは、ずかずかと部屋に入ってきた。
「どうぞお構いなく」と、ソファに座る。いかにも人間らしい。

 ユメはやはりロボットの中に人がいる線を捨てきれないでいた。
「あなたの体ってどうなってるの?」と少しの好奇心で近づくと、手を引かれてスィンドルの胸に閉じ込められた。
「嬉しいですねぇ、ユメさんから来てくださるとは。あなたを一目見たときからずっと、この腕に抱きたいと思っていたんですよねぇ」
「でも私のことなにも知らないじゃない」
「いーえ! わたしはユメさんのことなら何でも知っています。三日に一回自慰をされることも」
「なぜそれを! 変態!」
「そんなに褒めないでくださいねぇ」
 スィンドルはユメを解放して、しっかりと目を合わせた。紫色の瞳が生き生きと光る。

「ユメさん、わたしを恋人にするのはいかがですか?」
「間に合ってるんで」
「お仕事や外出の送迎、一日を通してのボディガード、今なら美味しいご飯とお家のセキュリティも付けましょう!」
「お得感を醸し出そうとしてもだめ」
 拒み続けるユメに、仕方がないですねぇとスィンドルは肩をすくめ、テーブルの上に何かを投げて寄こした。見るとそれは厚みのある札束なのだった。
「当面の家賃ということでいかがでしょう」
 恐ろしいほど気前がいい。武器商人とはそんなにも儲かるものなのだろうか。
「いや、でもね……」
 スィンドルの顔を見ているうちに、ユメはなんだか大きな瞳が愛らしいような気がしてきた。現金だな、私も。断る言葉が続かずに思わず笑ってしまった。

招かれざる客