「キャスター様、またあの人が来てますよ」
カウンターに座っていたキャスターに声が掛かった。
あの人とは言わずもがな、革命を起こしたがっているプログラム、バーティクのことである。日夜クラブを訪れる熱意に、ユメは感心半分、呆れ半分といった声音である。
「放っておけ」
「そろそろ本当のことを話しては?」
「革命を幇助したら、私がクルーに消されるだろ」
「あ……そうですね。わかりました。キャスター様がいなくなるのは、嫌ですから」
照れたようにユメが言った。
こんな一面もあるのかと、キャスターは目を見開く。
「それにしても不毛ですよね。ああやって面会を希望して何サイクルになるんです?」
「んー、長いのは確かだ」
「あの人キャスター様のことが好きなんじゃないですか?」
「なぜそうなる」
派手にこけそうになるのをなんとかこらえた。ユメが突拍子もないことを言い出すのは、今に始まったことではない。
「だって毎回キャスター様にあしらわれているのに、怒りもしないんですよ。不自然だとは思いませんか? ズースに会いたいというのは建前で、実はキャスター様に会いに来ているのだと考えれば、辻褄が合います」
探偵を気取った口振りに、キャスターはくくっと笑い声をあげた。
「しょせんは下級プログラムだ。そんな知能を有しているとは考えられんな」
「ちぇー。つまらないです」
「おまえはおめでたい頭をしているな」
青いカクテルを飲み干し、ユメの頭をわしわしと撫でる。「やめてくださいよ」と非難がましい声をあげるユメを、どこか愛おしく思った。
キャスターさんといっしょ : 虚誕