配達トラックで第10宇宙を駆け抜けたユメは、ラムーシの住む神殿にやって来た。
 やや重みのある積み荷を二箱降ろして広い庭へ入ろうとすると、タイミングを見計らったかのようにラムーシが出迎えた。気配を感じとったのだろうか。
「こんにちは! お荷物をお届けに上がりました」
「よく来てくれたな。楽しみに待っておったのじゃ」
 ふたりは神殿に向かって歩を進めた。
 いつからか、週に一度ほどここに立ち寄るのがお決まりのコースになった。聞けば食品や日用品を頼んでおり、特に通販限定のプロテインがお気に入りなのだそうだ。
「このところ少し冷えてきましたね。お風邪など召されてませんか?」
「わしは見ての通り元気そのものじゃ。ユメはどうじゃ? 変わりないか?」
「はい。おかげさまで」
 いつも優しく応対してくれる姿は、破壊神という肩書の恐ろしさなど微塵も感じさせない。
 そんなラムーシに微笑みつつ、「こちらに置かせていただきますね」と玄関でしゃがんだ。荷物を下ろして立ち上がろうとした瞬間、頭から血の気が引くような感覚がしてふらついた。
 すぐさま桃色の体に抱きとめられ、お礼を述べようとするも、気持ち悪さに口が開けない。
「少し休むことじゃ」
 そう言うとラムーシはユメをひょいと抱きかかえて歩き、ダイニングチェアに座らせた。
「まあ! ユメさん、大丈夫ですかー?」
 クスが心配そうに駆け寄ってくる。
「おそらく貧血じゃ。あれを頼む」
「わかりました。お待ちくださいね」
 数分経ってクスが戻ってくる頃には、だいぶ気分が落ち着いてきた。
「はい、どうぞ」
 差し出されたマグカップには茶色い液体がなみなみと注がれている。
「ありがとうございます。これは……ココアですか?」
「鉄分入りでーす」
「ココアは久しぶりです。いただきます」
 吹いて冷ましてから一口飲んだ。ホッとする甘さが体に染み渡るようだ。
「おまえはちと頑張りすぎなんじゃ」
 ラムーシが長い鼻でユメの頭を撫でた。
「ご心配をおかけしてすみません……」
「鉄分は大事じゃ。一袋持たせるから、家で飲むのじゃ」
「お心遣い痛み入ります」
 この恩をどう返せばいいだろうかとユメは考え始めた。

得意先