「ただいまー」
ユメが踵を鳴らして入ってくる。われわれ機械生命体が鍵をこじ開けて不法侵入することにも慣れたようで、顔には一片の戸惑いも浮かんでいない。
「おかえりなさい。更新はどうでした?」
「ほら、無事できた。けど疲れた」
渡されたカードを見ると、氏名や現住所とともに人当たりの良さそうな証明写真。この国の住人が運転にあたって必要となるライセンスである。
「よく撮れているじゃありませんか」
「そうかな。警察のおじさんの話が長くて緊張してね」
「ユメは捕まるようなことはしていないでしょう?」
「うん、大丈夫……だと思う」
少し考えて、
「君たちと親交があるのはセーフだよね?」
「さあ……どうですかねえ」
ユメに会って以来、我が軍はめっきり外出が増えている。この地域に戦闘機や装甲車が入れ替り立ち替り現れることに気付いている人間は多いはず。
「えっ。もしかして私マークされてる?」
「ユメに危害を加える者は私が排除して差し上げます」
「わーありがとー」
冗談と受け取ったのか、若干棒読みである。
「そうそう。おじさんの話聞いて、ノックアウトは若いなって思ったの」
「何です?」
「スピードの快感とか、危険な運転にひきつけられるのは若年運転者の特徴なんだって」
「ふん」
「あと攻撃的な運転と感情的な運転が特徴だとも」
「つまり私に直せと言いたいのですか?」
「いや、若くていいなって思っただけ」
私の何倍も生きてるんでしょ、と笑む顔を見るに嫌味ではないらしい。ユメも十分若いのに何を羨むのか。
「でも、運転には気をつけてね。傷ついたノックアウトは見たくないから」
そんな台詞をさらりと言うものだから、不意打ちをくらったスパークがじりじりと煩い。
「……まあ、あなたが言うのなら」
セーフドライバー