仕事帰りに珍しいふたり組に遭遇し、ショケイスキーの奢りという言葉につられたのがいけなかった。
 食事の前に映画鑑賞の予定が組まれており、その内容は確定していた。


 画面の中に縛りつけられた兎の体が、振り子状の刃物によっていともたやすく斬り裂かれる。断末魔とともに鮮血が広がっていく。

「いいなあ。僕もあれくらい大きな仕掛けで斬ってみたい」
「飛び散って大変そう」
「……うぇ」

 自分はなぜこのふたりに挟まれているのだろう。
 浅はかだった。処刑人と掃除人がそろって見たがる映画など、このジャンルしかない。自分も見られないほどではないが、これはいささか趣味が悪い。

「カンシュコフ大丈夫?」
 エマが心配そうな声を寄こす。
「うん……」
「唐揚げ食べる?」
「ありがとう」

 竹串にひとつ刺してみたはいいが、目の前で繰り広げられている惨状が目に入ってしまい、喉が詰まった。
 落ち着こう。画面に映っているものはフィクションであり、今食べているものとは何の関係もありません。

 飲み物をこぼさないよう、かつ、画面を見ないように薄目をあけながら、咥内で行き場を失っていた物体を流し込んだ。 ポップコーンを選ばないあたり、さすがエマだと思う。


「良い映画だったね」
「斬新でした」
「そうっスね……」
 顔色の良いショケイスキーと、満足げな口元のエマ。ふたりと比べて、自分の声のなんと力ないことか。

「僕は最後の方法が良かったなあ」と、柔らかな微笑みをたたえたショケイスキーが言う。
「ハサミがなくてプラスチックや草をねじ切ることがときどきあったけど、あれを兎でやるとは思わなかったな」
 思い出してしまった。速やかに忘れてしまいたいシーンのひとつである。

「歯車の無慈悲さがよかったです」と、エマも気に入った様子だ。このふたりなら、実際にやりかねない。しかし、あの残酷さでは新たな処刑方法として採用されることはないだろう。
 ――いや、ショケイスキーのキャリアと、ゼニロフの賄賂、エマの抹消能力をもってすれば、あるいは。

「カンシュコフ、顔色悪いよ?」
 エマがこちらを覗きこんだ。その瞳が妙に可愛らしく見えてしまい、やっと一言、平気、とだけ告げた。
 頭の一方ではついていけない、と恐怖を覚えながらも、また一方ではクリスマスカラーの先輩にない優しさや気配りに惹かれる。本当に、変わったひとたちだ。

優しい皮膚の下

(怖いけど、もっと知りたい)