記帳を終えたユメが預金残高を見て笑んでいると、上から覗きこんでいたレックウザが口を開いた。
「なあ、そんなに金があるなら宇宙服を買ってみないか」
「え……なんで? 誰が着るの?」
「無論きみが。そうすれば一緒に成層圏を飛べる」
「高い所って寒いんでしょ。凍えちゃわない?」
「大丈夫だろう。たぶん」
「たぶんって! 怖いよ! 私がお星さまになったらどうしてくれるのよ」
「でもあの眺めは格別なんだ……」
 そう言ってレックウザはしょげた。ユメのツッコミが効いたらしい。

 レックウザに乗って空を飛ぶのは好きだ。ホウエンの上空から夕暮れや夜景を見たのも一度や二度ではない。
 けれども彼が棲むほどの高空となると、薄らと恐怖を感じる。同時に、彼の言うように素晴らしい眺めが広がっているに違いないという思いが、ユメの心をくすぐる。
 可能であれば行ってみたい気がしてきた。

「そうだ、メタグロスの意見を聞いてみよう。あの子頭いいから」
 ボールから出たメタグロスは先の会話を聞いていたようで、「宇宙服を来て成層圏を飛べるか否か、だな?」と訊いた。
「そう。どう思う?」
「不可能ではないが、諦めたほうがいい。宇宙服は主の蓄えで買えるものではない」
「あらま……残念」
「なにより主を危険にさらすことになる」
 メタグロスはレックウザに向き直った。「もし主が落ちたらどうする? 落下のスピードは音速を超えるのだぞ。体内部が損傷するかもしれん。……これしきの危険も予測できんとは、伝説が聞いて呆れる」
「なんだと……!」
「こらこら、喧嘩しない」
 ポロックケースを取り出したユメがそれぞれにポロックを放ると、ふたりは途端に静かになり、口をもぐもぐさせた。
 メタグロスの心配も、レックウザのロマンも理解できる。形は違っても自分を思ってくれたことが、ユメは嬉しかった。

空の果て