つつ、と小麦色の肌をなぞる指。甘い吐息。重なるふたりの影。
(聞いてないよ!)
 PG12だからといって油断していた。サウンドウェーブとふたり、ソファで映画鑑賞中なのであるが、よもやラブシーンがあろうとは。
 今頃ほかのお茶の間も凍っているんじゃなかろうか。

 視界の端に、こちらをじっと見るサウンドウェーブを捉えた。
 何ともいえない居心地の悪さを、えへと笑ってごまかしたとき、紫に光るケーブルが脚に絡みついた。
 足首から膝、膝から腿へと螺旋を描くように巻き付いていく。
「ふざけてるの……?」
 彼は何も言わないまま、ケーブルを操るのみ。うねうねと動く先端は、何だか蛇のようだ。

(まさか、さっきのでその気になったんじゃ)
 いや彼に限ってそんなことは、と否定する。人間の不可思議な習慣を模倣しているだけなのだ。そうでしょう。
「ひゃっ、」
 不意に脇腹を撫でられ、身をよじった。
 すると、それを好機と見たのか、もう一本のケーブルが脇から胸に触れた。
 羞恥で顔が熱くなるのがわかる。
 だめ、と胸部の装甲を押すも、びくともしない。そうするうちにも、全身を優しくさすられたり、締められたりを繰り返すものだから、私はだんだん頭がぼうっとしてきてしまった。

(……あ、だめだ。一線を越えたら、きっと戻れない……)
 私は今にも崩れそうな理性を総動員して、彼の愛撫で膨らんだ期待を抑え込んだ。
「やめて」
 緩やかに、だが強く彼を押すと、意外にもすぐ離れてくれた。
 やはり、からかわれていたのだろうか。

「……」
「……ごめん」
 何に対して謝ったのか、自分でもよくわからない。冗談に本気になったことか。それとも、求愛を断ってしまったことか。
 「本気?」と、ただ一言訊けば判る。が、怖い。
 冗談ならまだ良いのだ。けれど、もし彼が今以上の関係を求めていたとしたら――。

「――喉乾いた」
 キッチンに駆け込み呷った水が、胸に冷たく染み渡る。
 とうに場面の変わったテレビの音が、遠く聞こえた。

(友情とは呼べなくなる)