彼女は大抵、日が暮れるころにやってくる。
「金城くん! 豆腐まだあるかな!?」
颯爽と自転車を降りたクラスメイトは銀色に輝く鍋を持って駆け寄ってきた。
「ああ。あと八丁ある」
「全部ちょうだい!」
「そんなに買ってどうすんだ?」
「おばあちゃんがね、豆腐を腹いっぱい食べたいんじゃあ~って言うから、今夜の献立は豆腐尽くしなの。豆腐ハンバーグに野菜と豆腐の炒めあんかけでしょ。あと麻婆豆腐にかきたま湯豆腐!」
早口で言い切った大畑は「いいでしょ~」と破顔した。
「すげーな」
大畑の豆腐好きはなかなかのものだ。オレの家が豆腐屋を営んでいると知ったその日から、大畑は毎日といっていいほど豆腐を買いに来る。通学路でもないこの店に。わざわざ自転車をこいで。
うちより近いスーパーがあるんだから、そこで買ったほうが楽なんじゃないか――?
ときどきそう思うのだが、丹精込めて造ったものを食べてもらえるのは嬉しいし、大豆愛にあふれる大畑を見るのがなんだか楽しいから、口を出さずにいる。
鍋に豆腐を詰め終えるころには、ちょうど八丁ぶんの代金がカルトンに置いてあった。
「まいどあり」
「うん……」大畑は何か言いたげにうつむいた。「……あのね、ちょっと渡したいものがあるの」
もごもごとそう言ったあと、自転車のカゴから綺麗に包装された箱を持ってきた。
「これ、金城くんに」
「ありがとう。……これなんだ?」
「ほ、ほんとは真っ白にしたかったんだけど限界があって……。私が帰ってから開けてね! じゃあまた学校で!」
大畑はかつてないほど素早く店を去った。だからこれは一体なんなんだ?
蓋を開けると醤油のかかった豆腐が入っていた。
……いや違う。黄味がかった白色と、ふわりと漂う甘い香り。これはホワイトチョコだ。そして醤油に見えた部分はビターチョコだ。
オレはハッとしてカレンダーを見やった。一日中店番をしていたからすっかり忘れていたが、今日はバレンタインだった。
つまり……そういうことなのか? こんなに手の込んだ義理チョコがあるはずないもんな。
友達はおしまい