同棲を控えたトッポとユメは必要品の買い出しに来ていた。
 大きなカートには、トッポの家に不足している種々の調理器具や消耗品が詰め込まれている。
「あとは……お弁当箱ですね」
 買い物リストに目を落としたユメが言った。
「ふむ、そうだったな」
 トッポはカートを押しながら歩き、商品棚に向き合っているエプロン姿の店員を見つけた。
「キミ、すまないが弁当箱の売り場はどのあたりだね?」
 振り向いた店員は声の主を見るや、「と、トッポさん!?」とのけぞり、握手を求めてきた。
 ファンサービスも大事なヒーロー活動の一環なので、トッポは小さな手を優しく握った。
 少し浮かれた様子の店員は、ご案内しますと告げて歩き始めた。
「それにしても、綺麗な奥様ですね」
「ふふ、ありがとう」
 まんざらでもなさそうにユメが目を細める。
「トッポさんがご結婚されていたとは知りませんでしたよ」
「いや、まだ籍を入れる前なんだ。どうか内密に頼むよ」
「承知いたしました! あ、お弁当箱はこちらですね。では失礼します!」
 案内された場所には色も形もさまざまな商品が所狭しと並んでいた。棚の端から端まで、ぎっちりと整列しているのはなかなか壮観な眺めだ。
「まあ……こんなにあるなんて。どうしましょう」
「私はこれといったこだわりはない。キミの負担が少ないのにしたい」
「それでは食洗機で洗えるのにしましょうか」
 ふたりの目は売り場のポップに引き寄せられた。形や素材の選び方について、メリットとデメリットが書いてある。
「なるほど……。では、丈夫でにおいの移りにくい物にするか」
 トッポは銀色の素材で作られた角丸の弁当箱をひとつ手に取った。
「これなど容量も手頃でいいのではないか?」
 手渡された物を吟味したユメは、
「そうですね。いいと思いますよ」
 それをカートに入れて微笑んだ。
「お弁当、頑張って作りますね。楽しみにしていてください」

 そして、同棲して初めての朝を迎えた。トッポはスーツに身を包み、靴を履いて振り向いた。
「では、行ってくるよ」
「お弁当は持ちましたね」
「ああ。昼休みが待ち遠しい」
「トッポさん、ちょっと屈んでもらえますか」
 言われた通りにしたトッポにユメが体を寄せたかと思うと、頬に柔らかいものが触れた。
 思わず目を見開けば、ユメは暖かな日差しに似た笑顔を浮かべている。
 これが行ってきますのキスか、とトッポは感慨に浸った。
「行ってらっしゃい」
「行ってくる」
 一人暮らしのときにはなかった軽さを感じながら、一歩を踏み出した。
 昼時、急に弁当を持参しだしたことを仲間に突っ込まれたのは言うまでもない。

キミと創る日々