「やったあ! また私の勝ち!」
 塵一つないテーブルの上にはオセロが置かれている。黒で埋め尽くされた盤面はユメの圧勝を示していた。
 キャスターは溜息をつき、席を立った。
「つまらん。まったくもってつまらん」
「すみません。私ばかり勝ってしまって」
「この退屈を何とかするためにおまえを雇ったというのに……」
「でもキャスター様、私が手加減をしても面白くないでしょう?」
「まあね」
 真剣勝負でないと楽しくないことは、よくわかっている。あの「ゲーム」も命を懸けているからこそ白熱するのである。
 それにしても、とキャスターは思う。ユメに期待しすぎていたようだ。「よく喋る」プログラムがいると聞き雇ったものの、常に最高の娯楽になるとは限らなかった。
(いっそ壊してしまおうか)
 ステッキの先をユメに向ける。銃が仕込まれていることは、まだ知られていない。
「どうしたんです?」
 オセロを片づけていたユメが不思議そうに顔を上げた。
(やめた)
 キャスターに軽口をたたけるプログラムはそう多くない。消してしまうのは惜しい気がした。
「なにか面白いことはないか?」
「そりゃまあ、ゲームですよね」
 しかし参加できるはずもない。ユメも同じことを思ったらしく、しばし沈黙が流れた。
「しりとりはどうですか」
「その程度の発想しかできないのかね」
「そのステッキめがけて輪投げするとか」
「……」
「タップダンスでも習われたらどうです」
「お、それはいい! まずは靴を用意しなくてはな」
「よかったークビにならずにすむ!」
「聞こえているよユメ」

キャスターさんといっしょ : 娯楽