「ユメ、どうした? 元気がないな」
 ああ、ついに指摘されてしまった。
 特別弱音を吐いたわけではないのだが、感情の機敏に敏い彼は、視線の合わせ方や声のトーンの違いで私の異変を察知したらしい。
「平気」
 これは定期的にやってくる病気のようなものだった。ある時突然――たいていは夜――自分が矮小な存在に感じられ、世界から孤立したような錯覚を覚える。
 しかし、そうした気分はあまり持続せず、次の日に持ち越すことは少ない。太陽の明るさがなせる技なのだろうか。
「明日には治ってるから」
 そう言って、テレビへ視線を移す。ちょうどCMに入ったところだ。画面を踊る食べ物や、見目麗しい人々を私は無感動に見つめた。
 いよいよ胸が重くなり、苦しくなってきた。気を紛らわせるために眉間をもむと、頬に視線を感じた。
「なあに」
「悩みがあれば、言ってくれ」
 優しい声に、私は薄く笑んだ。
「ありがとう。でもね、自分でもよくわからない」
 眉根を寄せた彼を見て、話すのをためらった。かといって、ここで黙っても彼を心配させるだろう。
「急に……気分が沈んじゃって。胸にブラックホールがあいて、自分がなくなりそうな感じなんだ。宇宙にひとり浮かんでいるみたいに、寂しくて」
 最後まで言わないうちに、オプティマスに抱きしめられた。背中を、彼の手がゆっくりとさする。
「わたしがいる」
「……うん」
 ほっとしたのもつかの間、私の虚空はそれすらも吸い込んでしまった。彼をもってしても、穴を埋めることはできないのだ。

 きっと、彼も深い闇を抱えている。それを私が取り去ることはできないだろう。けれども、寄り添うことはできる。彼が今、そうしてくれたように。

 だから、そばにいたいと願った。

私の中に潜む闇

(その彼方にある、光の予感)