……、ユメ、ユメ。

 どこか深いところから浮上する感覚がして、唐突に寝室の空気が感じられた。瞼の裏が明るい。

 朝か。
 襖の向こうから聞こえてくるノボリの声にうめき声を返すと、呼びかけはやんだ。目覚ましが鳴った記憶がないのだが、もう起きなければならない時間なのか。

 目を開けることさえ疎ましく、手だけを動かして枕元のCギアを探る。サイドボタンを押すと、機械的な女性の声が小さく響いた。
 只今、7時、5分、です。
 まだ寝れる。


「ユメ、朝ですよ」
 心地よく微睡んでいたところを、再びノボリの声が遮った。む、んとつぶれたムンナのような返事を絞り出す。
 まだ数分しか経っていない。用事は9時からだから、8時に起きても十分間に合うと思うのだが。見解の相違というやつか。
「半まで……」
 寝かせて、と続ける気力がなかった。


「ユメ、起きてくださいまし。ユメ、」
 いよいよノボリの声に不機嫌な色が混じってきた。うるさい。ノボリを嫌いになりそう。
 荒っぽく、ん! とだけ答える。
 Cギアは7時15分を告げている。スヌーズ機能さながらにしつこく起こしてくれやがった。覚醒の度合いは増してきたが、まだ目を開ける気分になれない。

 ……わかってる。私のことを思って早めに起こしてくれたことくらい。
 朝の私はまったくもって嫌なやつだ。自覚している。でも直しようがない。

 朝のばかやろう。
 心の中で汚い言葉を吐いて起きる力を蓄えていると、「ユメ、入りますよ」とノボリ。

 さすがに起きた。といっても、縮こまった四つん這いの姿になるのがやっとだった。急な体勢の変化に、血が勢いよく巡っている。

「おや、起きていらしたのですか」
「今起きた」

 残念、ともらすノボリ。何だ、残念って。私の顔に落書きでもするつもりだったのか。
 彼はすでにYシャツに着替えていて、後は朝食をとるだけ、といった風だ。同じ人間なのにこの差はなんだろう。悲しくなるね。

 ノボリは何を思ったか「しかめ面のユメも魅力的ですね」と言い残して、リビングへ戻っていった。
 まさか、褒められるとは。それとも今の、嫌味ですか?それをはっきりさせないことには、私の一日は始まらない。

sleeping beauty

(低血圧でごめんなさい)