ユメはプロールに乗っていた。彼は車体を傾けて、曲がりくねった山道をすいすいと走っていく。
どこまで行ってもセミの鳴き声が追いかけてくるのでユメはちょっとうんざりしたが、体全体で感じる風は涼しげで心地よかった。
「そろそろであるな」
通り過ぎる看板を見たプロールが言った。かれこれ一時間くらい走っていただろうか。ようやく目的地が近づいてきて、ユメは安堵した。
プロールが速度を落として、道路の脇に止まった。砂利と雑草でちょっとした駐車場のようなスペースがあるものの、車は一台も停まっていない。
「誰もいないね」
「穴場スポットを選んだからな」
ユメが降りるとプロールはトランスフォームして小さな看板のほうへ歩いて行った。滝の入口と書いてある。
ふたりは道なき道を下っていった。所々足場の不安定な箇所があり、プロールはユメの手を引いてそっと通過した。
茂った樹木と苔むした岩のなかをしばらく歩くと、水の落ちる音とともに小さな滝が現れた。
「わぁー、涼しいね」
「気温25度、街とは比べ物にならないである」
ユメは水辺にしゃがんで、汗ばんだ手を清水で洗った。水は澄んでいて魚がいてもおかしくはない。水の流れをぼんやり見れば、上流から木の葉が流れてきた。
「いつまでも見ていられるなぁ」とこぼすと、プロールが「そうだな」と応じた。
気を取り直してふたりは適当な石に腰かけた。ユメは持ってきた弁当を広げ、プロールは缶に入ったエネルゴンを取り出した。
滝の音に耳を傾けながら、ふたりは食糧を胃に収めた。
「なんだかいつもより美味しく感じるね」
「大自然のなせる業だな」
満足げな微笑みを浮かべるプロールを見て、ユメは口元が緩むのを感じた。まったく、彼と自然は相性がいい。ときどき、こうしてふたりで自然の中に身を置くのがユメの楽しみになっていた。
プロールが小石を拾って、水面に向かって投げた。石は何度か跳ねてから水中に沈んだ。水切りという遊びだ。
「いつもソーサーエッジを投げてるだけあって上手だね」
ユメも小石を投げてみたが、ろくに跳ねないでチャポンと沈んだ。
「プロールがやると簡単そうに見えるのに……」
「石の平らな面と水面が平行になるように投げるである」
シュッ! と放った石は丸い波紋をいくつか作って沈んだ。ユメも再度挑戦すると、一度だけ跳ねたので満足した。
「君とここに来れてよかった」
しみじみとプロールが言う。
「そうだね。また色んな所に行きたいね!」
ユメの言葉にプロールはニコリと頷いた。
憩う水辺