浴槽に張られた湯が、ちゃぷ、と音をたてて揺れた。先に入ったユメは律儀に体育座りをして、わたしのスペースを空けてくれている。そっと湯につかると、体が水圧と温かさで包まれた。
「と一緒にお風呂なんて、いつぶりだろうね」
いったいどうしたの、とユメが楽しそうに笑う。
「別に、理由なんてどうだっていいじゃない」
わたしがそっけなく答えても、彼女は「そうだね」と口元を緩ませたままだ。
「でも、本当に久しぶり」
そう繰り返して、白く立ち上る湯気のむこうを見るような目をした。昔を思い出しているのだろう。わたしがムウマだった頃を。
あの頃は良かった。ユメを邪な目で見ることも、自分の思いに押し潰されそうになることも、なかった。
変わってしまったのだ。あいつが現れてから。
「、相談があるんだけど」
「なに?」
「その、ね。あの人から遊園地に誘われたの。これって友達以上ってことかな。女友達とふたりきりで遊園地って、あまりないよね?」
脅威が背中を駆け抜けていった。
ユメとあいつがバトルで出会ってから半年経った。友達の次に進んでもおかしくはない。つまりは、恋人。そうならないよう、わたしは主にべったりな人見知りポケモンとして奴を牽制してきたのに。
わたしの圧力に屈せず、ユメを愛そうというの。
あいつを苦しめる呪文を唱えるのはたやすい。いっそのこと、わたしの創り出した幻の世界で、ユメとふたり、平穏に暮らしたいとも思う。
でも、そうしないのは――。
「ねえ、どう思う?」
「期待していいんじゃない。観覧車で告白とか、計画してそうね」
「そう? ……えへへ。だといいなあ」
ユメが、初めて見せる顔をするから。わたしがあげられないものを、あいつが持っているから。
「ありがとう。にそう言ってもらえると安心する」
「もっと自信を持ちなさいよ。ユメといるときのあいつは、とっても幸せそうにしてるんだから」
彼女がなんでも相談するのは、わたし。いつもそばにいるのも、わたしだ。
けれどもそれは、わたしが人生の伴侶であるという証拠には、ならない。
吐きかける本音
(わたしだけのあなたでいて)