プリンの専門店に勤めるフィズは店の入口に歩いていき、クローズの札を裏返した。開店の時間だ。
「いらっしゃいませ!」
 すでに並んでいたお客に声をかけ、ショーケースの裏側に戻った。
 この日最初に訪れたのは一風変わった三人組だった。水色の髪をした女性の後ろにいるのは、紫の肌に大きな耳を持つ人物と、2メートルはあろうかという長身の青い肌の人物。ふたりともエキゾチックな服装をしている。何やら只者ではない感じだ。
 陳列されたプリンに彼らが目を走らせたのを見て、フィズは口を開いた。
「ご注文はお決まりですか?」
「全部の味をふたつずつくださいな」背の高い人物が言う。
「あと、プレーンをひとつ」と女性。「会計は一緒でいいわ」
「お持ち帰りですか?」
「いいえ、ここで」
 朝からこんなに食べるなんて、よほどプリンが好きなのだなぁとほっこりしつつトレーに商品を取る。支払いは女性が済ませた。
 彼らはイートインスペースに座ってプリンの封を開けた。他の客がいないので、フィズはそれとなく三人の様子をうかがった。
 紫の人物が大口を開けてプリンを口に含む。特徴的な耳といい、鋭い牙といい、なんだか大きな猫に見えなくもない。
 そして、「美味い!」という声と「美味しい!」という声が重なった。
「この卵の風味と生クリームのコク! 濃厚でとっても美味ですねぇ。気に入りましたよ、店員さん」
 ニコニコと述べる人物と目が合い、フィズは微笑んだ。
「喜んでいただけて何よりです。とても美味しそうに召し上がりますね」
「それだけここのプリンの質が高いのよ」
 そう女性に褒められ、フィズは嬉しくなった。
 すべてのプリンをあっという間に平らげて、三人はトレーと容器を片付けに来た。
「お土産にもうふたつずつくださる?」
「わたしもプレーンを六つお願い」
「かしこまりました」
 化粧箱に商品を詰める際、フィズは鋭い視線を投げかけられているのに気づいた。黄色い目がじいっとこちらを見ている。
「キミ、名前は?」
「フィズと申します」
 ふうん、フィズか、と彼は目を細めた。
「ボクと一緒に来ないか」
「えっと……来ないか、とは?」
「ほほ、ビルス様ったら突然すぎますよ。フィズさんが戸惑っているじゃありませんか」
 背の高い人物が割って入り、「まずは自己紹介をしないといけませんね」と紫の人物を指した。
「こちらはビルス様。私の主です。そして私はウイス。ウイスさん、とでも呼んでくださいね。私たちは遠い星から来ていて、こちらのブルマさんに地球の美味しいものをいろいろとごちそうになっているんです」
 フィズは耳を疑った。
「宇宙人なんですか!?」
「はい。つかぬことをお聞きしますが……フィズさん、宇宙旅行にご興味はおありですか?」
「あります」
「ビルス様がぜひアナタを私たちの星にご招待したいとおっしゃっているのですよ。いかがですか?」
「私などでよろしければ、ぜひ!」
「それはよかった。それでは早速……と言いたいところですが、フィズさんは勤務中ですものね。終わるのはいつ頃ですか?」
 フィズは終業時間を伝えた。
「わかりました。それまで外で時間を潰していましょう」
 ウイスとブルマは箱を提げて出口に向かった。いまだフィズのことを見つめているビルスに声をかける。
「行きますよ、ビルス様。…………ビルス様?」
「なに、一目惚れでもしたわけ?」
「うるさいぞ! 余計なことを言うんじゃない」
 ビルスは「じゃ、あとでね」と怪しい笑みを残し、しっぽを翻して去っていった。
「ありがとうございました」
 フィズは三人を見送り、突然舞い込んできた非日常に思いを馳せた。