ビルスとウイス、フィズはカードの山を囲んで顔を突き合わせていた。ウイスが赤の3を出し、フィズが赤の5を出した。ウノである。続けてビルスがリバース――順番を逆回りにするカード――を出した。
 わずかにためらったあと、フィズは順番を飛ばすスキップのカードを出した。
「ウイスさん、ごめんなさい」
「おふたりとも、寄ってたかって私をいじめるのですね。ちっとも私の番が来ないじゃありませんか」
 ウイスはシクシクと泣くまねをした。
 ビルスは口元を歪めた悪い顔をすると、あるカードを叩きつけた。
「恨むなよ、フィズ。青色だ。それと、ウノ!」
 場に出たのはワイルドドロー4。つまり次のプレイヤーにカードを4枚引かせ、さらに場のカードの色を自由に指定できる最凶のカードだった。
「これがビルス様の奥の手ですか……」フィズはカードを4枚引いた。「ですが、このまま上がらせるわけにはいきません。黄色を指定します!」
「黄色ならありますよ」とウイスはフィズの出したワイルドカードの上に黄色の7を重ねた。
 ビルスは一枚になった手札を前に目を閉じたが、こらえきれず肩を揺らし、呵々と笑った。
「甘いんだよ! ボクの勝ちだ!」
 青の7を出したビルスはガッツポーズした。
「数字で上がるとは、やりますねぇ」
「せっかく色を変えたのに……」
 ウイスとフィズはゲームを続け、手札が多かったフィズは順当に負けた。
「次は七並べでもやりましょうか」
 フィズがトランプをシャッフルしていると、予言魚がふよふよと飛んできた。
「カードゲーム? 面白そう!」
「予言魚さんもおやりになりますか?」ウイスが言う。
「見る専でいいよ」
「では配りますね」
 三人はそれぞれ7のカードを出した。
 フィズは内心冷や汗をかいていた。手札には3やキングなど7から遠いカードしかなく、苦戦が予想される。
「これはつらいねぇ〜」と予言魚。
「パスします」
 まさか初手から出せないとは。フィズは唇を噛んだ。ビルスとウイスは涼しい顔をしてカードを並べていく。一度だけ、かろうじて出せるカードがあったものの、フィズはパスを重ねて失格になった。
「手も足も出ませんでした……」
「残念だったねぇ、フィズ」
 ビルスが笑ってカードをつまむ。
「おお〜それを選ぶのか」
「うるさいぞ、予言魚さん」
 ビルスとウイスはいい勝負をしていたものの、ウイスが一足早く上がった。それが悔しいのか、「もう一回やるぞ」とビルスはカードを切って配った。
 今度はまずまずの手札で、フィズは苦労することなくカードを出していった。その一方で、ビルスは黒い爪でテーブルをコツコツと叩いた。
「パス」
 続くウイスはポーカーフェイスでカードを出す。フィズも順調に手札を減らし、ビルスは「パス」と繰り返した。だんだん声が苛立ちを帯びてくる。そして三回目のパスをした時、ついに叫んだ。
「なんだこれ! 全然出せないぞ!」
 主の怒りを気にした風もなく、ウイスはハートの8を出した。
「おいウイス、8を持ってたんならもっと早く出せ!」
「これが駆け引きというものです。それに、手加減なしの真剣勝負だとおっしゃったのはビルス様ですよ」
 ビルスはぐうの音も出ない様子で、ウイスをじっとりと睨んだ。それを気にも留めず、ウイスは最後のカードを出した。
「はい、上がり」
「お強いですね。ウイスさん」
「運が良かっただけですよ」
「やめだやめ! おやつにするぞ!」
「はいはい」
 ウイスはおやつを取りに行き、フィズはカードを片付けた。
 幸いにも冷蔵庫に地球産のケーキがあり、四人は先ほどの争いを忘れてスイーツを楽しんだ。
「どうだ? このあと散歩でも」
 すっかり機嫌が良くなったらしいビルスに、フィズはふふっと笑った。
「はい、喜んで」
 食器を下げてから、フィズはビルスと城の外に出た。森の中は心地良く、新鮮な空気が美味しかった。
 そういえばさぁ、と隣を歩くビルスが口を開く。
「戦利品を見せてなかったよね」
「戦利品、ですか?」
「ボクがいろんな星から集めてきたんだ。例えば、あれは――」
 遠くに見える物体を指して、どんな星でどんな生物から奪ってきたのかをビルスは述べた。さらに、森の中を進んでは点在する戦利品について得意げに解説してくれるのだった。
「野外美術展みたいでいいですね。ビルス様」
「数が数だし、城に置くにはかさばるからな」
 フィズは戦利品を見て歩くにつれ、ビルスが本当に星を破壊してきたことを理解した。同時に、生物としての次元の違いを感じてしまった。
「私、ビルス様の隣にいていいのでしょうか」
 気づくとそんな言葉をこぼしていた。
「どうした? 急に」
「ビルス様は破壊神なんだなぁと実感したと言いますか……。それなのに、私はただの人間ですし」
 なるほどね、とビルスは考えるそぶりを見せた。
「……キミの言動は、淡雪を溶かす春風のごとくボクの心を温めてくれる」
「ふふ、ビルス様ったら詩人ですね」
 ビルスはフィズの頬に顔を寄せると、そっと口づけた。そのまま、あっけにとられているフィズを抱きしめる。
「いいからずっとボクのそばにいろ」
「……はい」
「誰にも譲るもんか。もし文句を言うやつがいたら、ボクが破壊してやる」
 フィズは照れくさいような、嬉しいような気持ちで胸がいっぱいになった。これが愛情なのだろうかとぼんやり思う。
 どれくらいの間そうしていたかわからないが、抱擁を解いたビルスはニッと笑った。
「いいな? 自分を卑下するんじゃないぞ」
「わかりました」
 フィズは思わず微笑んでいた。