髪を乾かすフィズは鏡に映る自分の口元が緩んでいるのを見ていた。ビルスの寝室に呼ばれたことが嬉しくて、どうしてもそうなってしまうのだった。
ドライヤーを片付けて、パチンと頬を張る。
「よし、行こう!」
紫の炎が揺らめく長い階段を上り、大きな扉をくぐって、いくつもの砂時計が浮かぶ寝室に着いた。
できるだけいつも通りの自分でいたいが、そわそわしてしまう。フィズは深呼吸をひとつした。
「ビルス様、フィズです」
呼びかけに応じて、ゆったりとしたパジャマに身を包んだビルスが飛んできた。よく来たね、と笑む。
「ちょっと、したいことがあるんだが……付き合ってくれるか?」
「はい、もちろんです」
ビルスはフィズを抱きかかえて、宙に浮く岩のひとつへ向かった。そこには真紅のシーツを敷いた丸いベッドがあった。ふたりで寝るには狭そうなサイズだ。
「横になってくれる?」
「こうですか」
真ん中に横たわったところ、もう少し寄ってくれと言われたのでフィズは体をずらした。
空いたスペースにビルスがするりと入りこみ、横向きに転がしたフィズを後ろから抱くようにして体を密着させた。
たしか、こういうのをスプーニングと言うのだったか。背中から伝わってくる体温にフィズの心は弾んだ。
スンスンと首元のにおいを嗅いだビルスが、
「フィズもボクと同じ石鹸を使っているんだな」
耳元でささやくので、とてもこそばゆい。
「同じ匂いになったかもしれないな」
「そうですね」
ビルスは身じろぎして、フィズの腕ごと上半身を抱きしめた。
「昔、宇宙で一番心地よい枕を探させたんだけどさ……フィズのほうが抱き心地いいね」
「ふふ……光栄です」
すっかり抱き枕にされているみたいだ、とフィズは思った。ビルスは胸や下腹部を触る様子は特にない。神様というのは計り知れない。
この穏やかな抱擁が嬉しいような残念なような、複雑な心境で目を閉じた。
今夜はドキドキして眠れそうにない。
「フィズ、もう寝ちゃった?」
「起きてます」
フィズは口を尖らせた。不服そうな声が伝わったのか、ビルスは笑いをこぼした。
「昼間ボクを冷たくあしらってくれたから、つい意地悪しちゃったんだよね」
「根に持っていたんですね」
「ねえ、どうしてほしい?」
低い声が耳をくすぐる。フィズは勇気を出して切り出した。
「セックスでも……いたしますか?」
「気が合うねぇ」
ビルスは身を起こしてパジャマを脱ぎ始めた。フィズもおずおずとそれにならう。
「えっと……よろしくお願いします」
一糸まとわぬ姿になったフィズはうつむいた。
「そんなにかしこまらなくてもいいんだぞ、フィズ」
「緊張、してしまって……」
「ほぐしてあげよう。この前の礼だ」
ビルスはフィズを仰向けに寝かせると首筋を優しく撫でた。
これからすることは何も特別なことではなく、これまでしてきたことの延長線なのだとフィズは自分に言い聞かせた。
鎖骨をなぞっていた手が胸のふくらみに触れる。感触を楽しんでいるのか、丸みに沿ってもんだり、押し上げては戻したりという動きが続いた。
敏感な頂点には触れないまま、ビルスの手は下に移動していく。みぞおちからへそ、下腹部にかけて適度な力でさすり始めた。
フィズは心地よさに加えて、さらなる行為への期待が膨らんでくるのを感じた。
「どう、気持ちいい?」
「とても癒されます」
「よかった。こっちの様子はどうかな」
ビルスは女性器の入口に指を入れ、湿り具合を確かめた。
「うん、なかなかだ」
愛液をすくってフィズの花芯をくるくると撫でる。
「んっ……」
フィズは待望していた刺激に思わず顔をそらした。
「かわいいねぇ」
ビルスは胸の先端を口に含んで舌で転がした。甘いしびれが体に走り、声をもらしてしまう。そのうちにフィズの秘部はぴちゃぴちゃと音をたてるようになっていた。
「こんなに濡らして……そんなにボクのものが欲しいかい」
「はい……ビルス様が欲しいです」
「素直でよろしい」
ビルスは竿をあてがってフィズの中にゆっくりと沈めた。自分とは異なるもので満ちていく感覚にフィズの息が上がった。
「痛くない?」
「はい。繋がれて嬉しいです」
ボクもだ、とビルスは言った。
「じゃ、動くよ」
ビルスはフィズの中を浅くかき回した。硬さのある男性器が、へそ側の膣壁をこするたび、じんじんとした快感が体に広がる。
「あっ、あ……。こすれてっ、き、もちい……」
「いい、反応だ……」
フィズがうっとりと刺激を楽しんでいると、ふいに律動が止まった。今度は体重をかけてフィズの最奥に押し当ててくる。
「っ!? 奥っ……そんな」
「へえ、ここがいいんだ? もっと突いてあげよう」
声に愉悦をにじませたビルスは軽い力加減で小刻みに奥を揺らした。
「あ、だめっ……! そこ、は」
「そうか、だめか」
すんなりと攻めの手を止めたビルスは竿を抜いた。瞬間的にフィズは物足りなさを感じ、そんな自分が恥ずかしくなった。
「なんてね。フィズ、後ろを向いてくれ」
「はい……」
頭をぼうっとさせたまま四つんばいになる。再びフィズはビルスで満たされ、心身が悦びにうち震えるのがわかった。
「あんっ……んっ……いい……っ」
ビルスの動きに魅了されるうち、フィズは尻を突き出す姿勢になっていた。身を包む一体感と押し寄せる快感に夢中になる。
「はっ……いくぞ、フィズ、ッ……!」
「きてっ……ビルス、様ぁ!」
ビルスはゆるゆると静止し、熱を吐き出した。荒い息をつきながら己を引き抜いて、ぐったりと横になったフィズを抱きしめる。
しばらくして、ふたりはどちらのものかわからない体液を拭き、寝衣に袖を通した。
「大丈夫か?」
「はい」
「キミの寝室まで送っていくよ」
「このベッドでは狭いでしょうか」
「ボクってさぁ、すっごく寝相が悪いんだよね。キミを傷つけないとも限らないし、別々に寝たほうが安全かな」
「そういうことでしたか。わかりました」
頷くフィズを抱きかかえ、ビルスはフィズの寝室まで飛んでいった。
「それじゃ、おやすみ」
「おやすみなさい。ビルス様」
キスを交わして、フィズは幸せな気持ちのまま寝転がった。そして、心地よい疲労感の中で眠りに落ちていった。