今日は朝からファイナルファンタジー7の話をしていた。同じFFシリーズのユールたちにゲームの話をするのはなんだか不思議な感じがしたが、興味津々といった様子で聞いてくれるので、私の口は滑らかだった。
「そういうわけで、一行はゴールドソーサーに到着しましたとさ」
「それで?」
「続きはまた明日にしようか。だいぶ喋ったからね」
ユールは口を尖らせたけれど、「明日の楽しみにしておくね」と目を細めた。
「ユメって、語り部みたいだね」
「ふふ、そんな大層なものじゃないよ」
すごいのは私じゃなくて、色んな話を作って語り継いできた人たちだと思う。私はメディアを楽しんで文明の利器を利用するだけで、スマホひとつ自分で作ることができない。作れるといったら折り鶴やおしぼりアートくらいだ。本当は料理もできるが、この世界は調味料が少ないのでなかなか難しい。
私はなんとはなしに尻ポケットに手を入れた。すると何か物が入っていた。取り出してみればチョコバーだった。体温で溶けたらしく、ぺしゃんこになっている。
すっかり存在を忘れていた。いつ持ってきたのだろう。
包装を破いて、せんべいのように平べったくなったそれをナイフで一口大に切り分けた。
「美味しいものあげる」と三人に手渡してみる。
三人は茶色い物体を疑問符を浮かべた顔で眺めたあと、少し匂いを嗅いで口に入れた。
「甘い!」
ユールは口を押さえてぴょんぴょんした。
「感動。こんな食べ物、初めてだ」
「この世の甘みを凝縮したような味だな」
ノエルとカイアスが感想を述べる。食べ終わっちゃった……とばかりにユールが肩を落としているので、
「はい。もう一欠片あるよ」
私の分をあげた。
彼女はチョコバーを口に含むと満面の笑みで頬を包んだ。あげたかいがあったというものだ。
「さて、暇だね。王様ゲームでもする?」
「なんだ? 王様ゲームって」
私はルールを説明して、いらない紙の切れ端に王様と1から3の数字をそれぞれ書き込んで折り畳んだ。シャッフルしてひとり一枚引く。
「王様だーれだ?」
ノエルが挙手した。
「俺が何か指示すればいいんだな?」
「そう。何でもいいんだよ」
ノエルはしばらく考えてから、「じゃあ……1番と3番が指相撲をする」と呟いた。
ユールと私はお互いの右手を組み合わせた。指相撲だなんていつぶりだろう。懐かしい気持ちになる。
「はっけよい、のこった!」
ユールの親指は私の攻撃をひょいとかわしていたかと思うと、私の親指を捕まえて押さえつけた。白魚のような手のどこにそんな力があるのか、私の指は圧倒的な力に抗えずに10秒経ってしまった。
「ユール強いね! 全然勝てなかったよ」
「意外。俺より強かったりして」
カイアスは何も言わなかったが、ユールの勝利にどことなく嬉しそうだった。
再度くじをシャッフルして、自分の引いた紙を開いた。
「よし! 私が王様だ」
私は思いついた指示に笑いをこぼしながら言った。
「1番と3番がセクシーポーズをする」
「せくしーって何だ?」とノエル。
「色っぽいということだな」
そう言いながらカイアスは両腕を頭の後ろで組んだ。たくましい二の腕と胸筋が強調される形になる。
「カイアスがやるとボディビルダーみたいだなぁ」
「ボディビルダーって何だ?」
筋肉を鍛えて立派な体を造る人のことだよと説明する横で、ユールはカイアスのポーズを見て真似た。控えめな胸が強調され、私は微笑んだ。
「うん、これぞセクシーポーズだ。いいものを見させてもらったなぁ。ねぇノエル」
「ん? そうだな」
色気というものを理解しているのかいないのか、ノエルはコクリと頷いた。
再度くじをシャッフルして四人一斉に開くと、ユールが跳ねた。
「わたしが王様だよ!」
腕を組んで少し考えたが、思いついたのかぽんと手を打った。
「2番が3番の肩をもむ」
「なんて優しいんだ」と私は先ほどの指示を恥じた。
ノエルが腰かけたカイアスの後ろに回り、とんとんと肩を叩く。
「いつもありがとな」
「…………ふん」
心がほっこりしたところで、くじを集めてシャッフルした。私が引いたのは1番だった。
「王様だーれだ?」
「私だ」
カイアスが言って腕を組んだ。少し考えてから、
「1番と2番が舞い踊る」
いい声で宣言した。
「俺、2番だ」とノエル。私はにわかにドキドキしてきた。
「私、ろくに踊ったことないんだけど」
「同感。昔、少し教わったけどあまり覚えてないな」
そう言いながらもノエルは左手を差し出した。私は対面する右手でその手を取り、そっと握り合わせた。
私の左腕はノエルの腕に添え、ノエルは右手を私の背中に回した。自然と距離が近くなる。
いけね、にやけたかも。
私は表情を引き締めながらノエルとステップを踏んだ。ユールが手で三拍子を刻んでいる。音楽があればよかったなぁと思ったものの、これはこれで楽しい。
束の間のダンスを終えて、私とノエルは笑い合った。