ゆっくりと湯に浸かる。心地よい熱が足から腰、全身を包み込む。
「はぁー…………」
 シェリーは広々とした浴槽にもたれた。疲労と緊張の糸がほどけていく。
 今日はよく働いた。初日なのでよろいのきしに手取り足取り教えてもらったのだが、仕事内容はラダトームにいた時とさほど変わらず、なんとかやっていけそうな気がした。
 とはいえ相手は竜王なので、かなり緊張する。ミスをしたらどうなるかは、あまり考えたくなかった。
「まぁ、頑張るしかないよね……」
 シェリーはぽつりとひとりごちた。
 たった一人攫われたことを考えると心細いが、この城に来てよかったこともある。よろいのきしが優しいことと、浴場が広いことだ。湯を独占していると貴族になったかのような気分になる。
 入浴はどうすればいいか上に尋ねたところ、ここを自由に使うがよいとのことだった。
 さすがは王の中の王、懐が広い。
 と、この時ばかりは手放しで喜ぶシェリーであった。
 聞けば、ほとんどの魔物は入浴を必要とせず、毛繕いや沐浴で充分らしい。
 せっかく浴場があるのだから、みんな入ればいいのになぁ、と思いながらシェリーは髪と体を洗った。
 肌についた水滴を拭い、下着――なんとだいまどうが町に忍び込んでチェストごと持ってきた――を身につけようとしたところでシェリーは固まった。持ってきたはずのショーツがない。しばらく籠を漁ったものの、やはりない。
 仕方がないので今日着ていたものを履こうかと考えたところで、よろいのきしの声がした。
「シェリーさーん」
 脱衣場に入ってきた彼はジェニーの裸体を見てあたふたした。
「ワッ、ごめんね!」
「いえいえ」
 シェリーはタオルで体を隠した。
 これが落ちていたんだ、と騎士は顔を隠しながらショーツを差し出した。
「ちょうど探していたんです。ありがとうございます」
「ならよかった。それじゃ俺はこれで」
 裸見ちゃってゴメン、と言い残して騎士は立ち去った。
 彼の反応になんだかこちらも気恥ずかしくなってしまった。犬や猫の裸に何も感じないようにスルーされると思っていたのだが、あんな反応をされるとは。
 魔物と人はお互いに恋愛対象になりうるのだろうか。シェリーは自分の考えに頭を振った。