シェリーが攫われる少し前。料理番を務めていたよろいのきしは、塩と砂糖を間違えるというミスを犯して大目玉を食らった。そして竜王とだいまどうは話し合いの場を設けていた。
「料理番を変えよ」
「そうしたいのは山々でございますが、あの者がいちばん調理に長けているのです。ほかには誰も包丁を握ったことがなく……」
「むう……」
「人間を連れてくるのはいかがでしょう?」
「そうじゃな、それがよい。最も腕の良いのを連れてこい」
「となりますと……」だいまどうは水晶玉を磨いた。「やはり城のコックですな」
「そうか。そやつを攫うとしよう」
「しかしひとつ懸念が」
「なんじゃ」
「炊事場のトップともなれば味は自由自在。ということは毒を隠すこともできましょう」
「わしは竜じゃぞ。人の毒など取るに足らぬ」
「しかし食事は毎日のことですゆえ、お体を壊さないとは言い切れませんぞ」
「では反抗しないのを連れてこい」
 竜王は肘掛けを指でトントンと叩いた。
「かしこまりました」

 だいまどうは調理場に向かうと、食器を拭いていたよろいのきしに高々と告げた。
「よろいのきしよ、この度の失態により、そなたは料理番の座から外されることとなった!」
「ははあっ……」
「ついては後任の者を寄越す。その者の指導にあたれ。その後の状況によってはそなたを他の職へ回すことも考える」
「後任とは誰ですか?」
「人間をな、一人連れてくる。ラダトームの厨房から」
 だいまどうが掲げた水晶玉にシェリーの姿が映った。



 竜王と臣下、シェリーたちは大きなテーブルで揃って食事をしていた。
 料理をあらかた腹に収めたところで、前々から思っていたのですが、とシェリーが言う。
「竜王様って、少しだけスライムに似ておられますよね」
 だいまどうが飲んでいたものを噴き出した。それをごまかすように咳払いをする。
 よろいのきしは焦った様子の小声で「シェリーさん、それ言っちゃだめなやつ……!」と叫んだ。
「なに? スライム似じゃと? どこがじゃ?」
「試しに笑ってみてください」
 竜王は「こうか?」と口角を上げる。
「ほら! やっぱりスライムっぽいですよ。目は鋭いのですけど、口元がそっくりです。とてもかわいらしいですね」
「かわいいじゃと? ……初めて言われたな」
 まんざらでもなさそうな竜王に、場が丸く収まったことを臣下たちは感謝した。