よく晴れた午後、竜王は調理場にいたシェリーに声をかけた。
「この前、良い場所を見つけてな。どうじゃ? 一緒に行かぬか?」
「行ってみたいです」
即答すると竜王は満足げに頷いて、きびすを返した。
あえてどのような場所かは訊かない。わくわくしながらシェリーはりんごジュースの瓶とコップを籠に入れて、中庭に急いだ。
「では行くぞ」
待っていた竜王が巨竜に変身する。この姿もだいぶ見慣れた。背中に乗ったシェリーは紫色の鱗に頬を寄せた。
しばらく飛行して降り立ったのは、なだらかな丘に広がる花畑だった。瑠璃色の小花があたり一面に咲いている。空の色と溶け合うような風景にシェリーは感嘆の息を漏らした。
「とっても綺麗ですね!」
「そうじゃろう、そうじゃろう」
人の姿になった竜王が楽しげに言う。
シェリーは花を少しだけ摘んで、押し花にしてみますねと籠にしまった。花畑を見渡せる芝生に座り、持ってきたりんごジュースをコップに注いだ。
「連れてきてくださってありがとうございます。まさか竜王様がこのような場所をチェックなさっていたとは意外でした」
「わしはそなたが一番じゃからな。喜びそうな場所は常に頭に入れておるぞ」
「ふふ、嬉しいです」
その時、強い風が吹いてシェリーの髪を乱していった。
竜王が体を寄せて髪に触れる。花びらがついておった、と青い花弁を取ってみせる。
礼を言おうとしたシェリーの唇は、竜王によって塞がれた。思わず目を閉じる。優しく触れ合う感覚にうっとりしていると、竜王の舌が唇を濡らし、さらには口内に侵入してきた。
「んっ……」
お互いの舌が絡まり合う。歯列をなぞられ、背筋がぞくりとした。しばらくそうしていたが、竜王が口を離し、シェリーは息をついた。
「舌を……入れるのですね」
「驚いたか?」
「はい。まるで本当に恋人のようで」
「わしらはとうに恋人同士ではないのか? ゆえに――」
このようなこともする仲だと思っておるぞ、と耳元でささやき、竜王は牙でシェリーの首筋を甘噛みした。意外な行動に心拍数が増す。
「この続きはまた今度にするとしよう」
体を離した竜王がにやりと笑う。
「すごく……ドキドキしています」
「ひとつずつ段階を踏んでいくからな、心配するでない」
驚きと期待がないまぜになった気持ちで、シェリーは熱くなった頬を押さえた。